しょぼくても「生きていい」「生きていける」起業のススメ ー えらいてんちょう「しょぼい起業で生きていく」(イースト・プレス)

筆者は「朝、起きられない」といった曖昧な動機から、リサイクルショップの起業をスタートに、イベント・バーなどを立ち上げた、いわゆる成功している「青年起業家」であるのだが、本書の「はじめに」のところによれば、

この本では、そんな従来の「起業」というイメージとはまったく別の「多額の開業資金」も「特殊な技能」も「綿密な事業計画」もいらない「しょぼい起業」という新しい考え方と、その方法をみなさんいお伝えしていきます。

ということで、「会社を辞めてガンガン稼ごうぜ、あなたもこれで大儲け」といった、いわゆる「アオリ」系の「起業本」ではない。
むしろ、起業のススメというよりは、新しい「生き方」「働き方」の提案書という色合いの強い「ビジネス本」である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 もう、嫌な仕事をするのはやめよう
第2章 「しょぼい起業」をはじめてみよう
第3章 「しょぼい店舗」を開いてみよう
第4章 「協力者」を集めよう
第5章 しょぼい店舗をは流行らせよう
第6章 「しょぼい起業」実例集
Pha×えらいてんちょう対談 「お金」に執着したい生き方
借金玉×えらいてんちょう対談 草むしりから始める

となっていて、第一章のあたりは、「嫌な仕事からは逃げていい」「サラリーマン生活から落伍しても敗者ではない」といった、毎日定時に出勤し、上司の目を意識しながら、同僚とともに競争もしながら働く、といった「勤め人」生活に不具合を感じている人へのエールで、ここらはよくある「起業のススメ」と同じトーンなのだが、ユニークなのは第2章以降である。

というのも、本書で提案する「しょぼい起業」とは、例えば

この「いつもやっている行為をお金に換える」という発想は「しょぼい起業」の基本的な考え方のひとつです。これを「生活の資本化」(コストの資本化)と呼びます。
(略)
最初から大量生産して一攫千金を狙ってはいけないのです。それはしかるべき知識と技術と土地と、失敗してもリカバリーでできる生活手段を持った人がやることです」

といったことを踏まえて

「しょぼい起業」においては、綿密な事業計画なんて必要ありません。どうせ事業計画どおりにはいかないからです。
(略)
「資金を集めて店を借りて許可をとって設備を整えてから営業する」のではなく、「店を借りて営業しているとお金が集まってくるので設備が整えられて、必要な許可をとらざるを得なくなる」のです。これが「しょぼい起業」における、失敗しないための順序です。

ということで、いわゆる「起業本」がアドバイスする、緻密なマーケティング、将来を見据えた事業計画。金融機関の納得する資金計画といったものとはかけはなれたものなのである。

ただ、

事業はアイデアからはいるというより、人とのつながりや置かれている環境などの条件から、自分が「できそうなことを発見して事後床していくものなのだと思います。

として、

・まずできることを積み重ねることが重要
・出資を受けたいならまず自分のできる範囲のことをやって、その成果物を投資家の前に持っていく

とか

実際に店舗を構えているということは、それだけで、社会的ステータスを格段にあげます

といったアドバイスは、壮大な事業計画に酔うことなく、事業を一つ一つ立ち上げていった「起業家」の地道な姿を見出すことが出来て、「仕事をしている人のところに、仕事は来る」という言葉は重みがありますね。
第6章では、筆者が自らのリサイクルショップの事業を譲渡するときの話とか、えもてんちょうが「しょぼい喫茶店」を開業する経緯であるとか、巨大ビジネスを立ち上げる話と同じくらいドキドキする話である。

【レビュアーから一言】

「起業」の本であることは間違いないのだが、それとともに、「ちしょぼくても生きていっていいエリアのつくり方」「自分と自分に近しい感性を持った人々がストレスなく生きることのできるエリアのつくりかた」といった、社会づくりの提案本としてもとらえたい本である。

「てっぺん」を目指すのではなく、かといってリタイアするのではなく、自分サイズの暮らしとビジネスをつくっていく、そんな「働き方」と「生き方」の本としてオススメしたい。

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