元旗本の若様、巡査教習所で大暴れの毎日 ー 畠中恵「若様組まいる」(講談社文庫)

「アイスクリン強し」であっけらかんとしたデビューをした、元二千石の旗本の若様・長瀬健吾たちをメインキャストにした「明治の若様組」シリーズの第二弾。

第二弾ではあるが、前作の「アイスクリン強し」などのシリーズ各話の後を受け継ぐ話ではなく、長瀬たち元旗本の若様たちがなぜ集団で「巡査」になったか、そして、薩長の側なのに、彼らと仲のよい「玉井」たちとどこで知り合ったのか、といったことが語られる「前日譚」である。

 

 

【構成と注目ポイント】

構成は


第一章 番町の住人
第二章 愛宕町
第三章 起床ラッパ
第四章 去りゆくもの
第五章 東京
第六章 巡査派出所
第七章 明日のこと
終章

となっていて、まずは、このシリーズのメインキャストの一人である、長瀬健吾が、巡査になるために試験を受けると言い出し、同じ旗本の「若様」仲間の園山とか福田、小山など、このシリーズのサブキャストの面々を誘うところからスタート。長瀬がなぜ「巡査」を目指したのか、ということろは最後の鵬で明らかになるのだが、当時の「巡査」の給料が7円から10円ぐらいで「薄給」といって間違いないのだが10円あれば人並みの生活が送れたようであるから、幕府の旧臣であって、商才も学歴もない長瀬たちにとっては、定収入が得られる職として手っ取り早かったのだろうと推測する。

さらには「巡査」の採用試験の条件として、本書では年齢や身長などのほかに「普通の文章の読み書きが出来る者」「日本歴史の大略に通じる者」「楷行書を作り得る者」となっていて、この出典はよくわからないが、サーベルといった「刀剣系」の武器を携行させて、薩長出身の警察幹部のもとで働かせるには、元幕臣が教養もあって、生活の資を得るのに困っていて、といったところで都合が良かったのかもしれないね、と推測する。明治草創期の頃の警察官である「邏卒」の採用では2/3が薩摩人であったというデータもあるのだが、明治も中頃になり西南戦争の後は、「薩摩だけ」とばかりも言ってられなかったかもしれないですね。

話の展開のほうは、巡査になる試験に合格して、研修のため、「巡査教習所」で2ヶ月間の寮生活を送っている間に起きる出来事なのだが、新規に採用される巡査仲間は「薩長などの官軍側」「かつての町人」「元幕臣で江戸に残った者」「元幕臣で徳川慶喜に従って静岡に移ったもの」という4つの立場の者で構成されているのだが、「薄給」の巡査になろうとするぐらいなので、官軍側も町人も跡継ぎではなく次男・三男という冷や飯食い、元幕臣側は賊軍としてもともと肩身が狭い、というところで景気の良い階層はおらず、さらにそれぞれが互いに不信感を抱いている、という揉め事が起きないほうがおかしい初期設定である。

で、こうした初期設定の中で、長瀬の幼馴染の真次郎が持ってくる「西洋菓子」が皆をまとめる良い接着剤となったり、町人出身の同僚が狙撃され、その世話と学業指導を長瀬たち「若様組」命じられたり、その頃、都内を騒がせていたピストル強盗に銃弾を横流ししている輩が教習所内にいるのでは、という疑惑が持ち上がったり、と2ヶ月間の短いながら、次々と事件や厄介事がおきる展開である。

まあ、最後のところは、このシリーズの特長らしく、悪党は無事捕まって、仲間たちはさらに結束を固め、そして旧幕臣も、薩長も、元町人も「巡査」を目指す仲間に「悪い奴はいねぇー」ってなところに収まっていくので安心して読んでくださいな。

【レビュアーから一言】

今回は、長瀬たちが巡査になる、というのがメインのテーマであるので、長瀬や真次郎と幼馴染である「小泉沙羅」や彼女の女学校仲間も登場しない、至って「男臭い」色気のない話ではあるのだが、学生時代の「部活」を思わせるような雰囲気があって、なかなかに味がある筋立てになっている。
特に、男気はあるがちゃらんぽらんな感じの強かった「長瀬」の意外な親思いのところや、気配りのある振る舞いなど、意外と思えるところが垣間見えるのが興味深いですな。
もっとも、「園山薫」の凶暴性は第一作や次回作と同じで全く「変わら」ないのも、別の意味で安定した魅力ではありますが・・。

若様組まいる (講談社文庫)
若様組まいる (講談社文庫)

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