明治の女性も強かった。沙羅ちゃん、世界へ雄飛する ー 畠中恵「若様とロマン」(講談社文庫)

警視庁の巡査となった、元旗本の長瀬健吾とその友達の若様たち、横浜の居留地育ちの西洋菓子職人・皆川真次郎、成金の金持ちの美人でお侠なお嬢様・小泉沙羅たち、明治時代の元気いっぱいの向こう見ずな若者たちが活躍する「若様」シリーズの第3弾。

今回は、貧乏旗本の末裔で徳川方の賊軍のせいでいつも金欠状態だが、武術に腕は確かで結束も固い「若様」たちの「見合い話」が突然持ち上がっての大騒動である。

見合い話が持ち上がった訳は、戦争の気配が強まってきた時勢に危機感を持った沙羅の父親の小泉琢磨が、彼と意見を同じくする警察の大幹部・大河出警視や巡査教習所の元幹事・有馬たちと、戦争を阻止したいグループの数を増やすため、「若様」たちを見合い結婚させ、その親族を味方に引き入れようと考えたことによる。時代設定的には、明治政府の初めての大掛かりな対外戦争となる「日清戦争」間際という辺りと推測するので、明治24〜25年といったところであろうか。

【収録と注目ポイント】

収録は

園山・運動会
小山と小沼・川開き
加賀・百花園
長瀬・居留地
真次郎・亜米利加

の五話で、それぞれの見合話が一話ずつの構成となっている。

まず第一話の「園山・運動会」は、その見合い話の企みがされるところからスタートするのだが、その見合いの第一番に選ばれるのが、イケメンながら、突然「歩く凶器」と化す「園山」である。その園山の相手となるのが、太田駒子という女性なのだが、彼女は嫌な男から見合いを申し込まれており、その話を壊すために見合いをしても返事をできるだけ延ばせという無茶な命令が、小泉沙羅からくだされる。
その命令を園山も承知し、沙羅と駒子の通う女学校の運動会の会場で見合いが行われようとするのだが、駒子の見合いの相手・青川もその運動会にやってきて、園山たちと大げんかを始める。といった展開。商売上の借りがあるため、青山の駒子との結婚の要求を断れない駒子の父親であったが、なんと青山の邪心を打ち砕いたのは、駒子の伯母。彼女が薙刀片手に青山へ言った言葉はなんと・・・といった筋立て。歳を重ねても、男は女に勝てないな、というのがはっきりさせられる展開ですね。見合いの方は、駒子のお相手はその山ではなく、教習所の同期で薩摩者の小山になったのだが、園山にも別の女性が現れるのでご心配なく。

第二話の「小山と小沼・川開き」は、若様の中でも禄が低かったせいと、飛び抜けたところもないため目立たない「小山」「小沼」二人のお見合い。しかも見合いの日と場所が「両国の花火」の日ということで、見合いの相手が入れ違ってしまう、というハプニングが起きる。
もっとも、見合いの相手方の家にとっては、それぞれの揉め事(同じ詐欺師に関連したものなのだが)を警察官に解決してもらうための見合いを口実に使ったのだから入れ替わってもノープロブレムというところであろう。
ただ、何が幸いするかわからないのが、男女の仲で、相手が入れ替わっても誠実な対応をする二人に「幸」が訪れるのだから、人当たりを良くしておくと「運」が舞い込むものであるらしい。
さて、詐欺師をどうやって両国花火の人混みの中で捕まえたかは原書でご確認を

第三話の「加賀・百花園」は、若様組ではなく、大河出警視の甥の「加賀」の見合い。この見合いの相手は、軍人の娘なのだが、戦争を阻止しようと仲間を増やすために巡査に見合いをさせている小泉家の当主・琢磨や大河出警視が企んだものでではないというのが、トラブルのもと。これに、軍への小麦の納入品が粗悪になったのに、小泉商店が絡んでいるという疑惑まで持ち上がって、加賀だけでなく若様組・小泉琢磨と沙羅を巻き込んでの騒動になるという展開。

第四話の「長瀬・居留地」は、若様組のリーダー格・長瀬のお見合い。彼のお相手は、学問に優れた「水柿家」の娘・あやので、結婚すれば大学進学の学費を出してくれるということで、家が貧乏なために進学を断念して巡査になった「長瀬」にとっては思いもかけないチャンスである一方で、菓子修行のための渡米の話を真次郎をはうじうじと悩んでいるうちに、沙羅が洋服の「ドレス」を密かに買い集めているといった事態も起きて・・・といった展開。
長瀬・真次郎・沙羅の三人の身の上に大きな変化が訪れ始める筋立てですね。

最終話の「真次郎・亜米利加」は、第四話の三人に起きた出来事の解決編。沙羅の渡欧希望が明らかになるのだが、当然小泉家の当主・琢磨も猛反対なのだが、沙羅が諦めるわけもなく、といった「沙羅の渡欧物語」が話の中心。これのサブストーリー的に「真次郎」の渡米話の結末や、水柿あやのとの見合い話のいきがかりで大学合格が義務付けられた「長瀬」の受験奮闘記などが語られます。

【レビュアーから一言】

気ままに、風来坊のように「若さ」を謳歌していた「長瀬」「真次郎」「沙羅」そして若様組の面々に、それぞれの分かれ道が訪れるシリーズ第三作目である。
思いがけないのは、長瀬があっさりと「沙羅」に振られてしまうところで、女性実業家を目指す、お侠な娘は「恋」なんてしている暇なんかないんでしょうね、と「明治の女も強かった」と現代娘顔負けの「沙羅」の奮闘が小気味いいですね。

若様とロマン (講談社文庫)
若様とロマン (講談社文庫)

コメント

タイトルとURLをコピーしました