国元から来た若殿様は、ぼろ鳶組を潰す気なのか? ー 今村翔吾「九紋龍 羽州ぼろ蔦組 3」(祥伝社文庫)

壊滅寸前のところから、新リーダーの松永源吾を筆頭に、軟弱風の剣の達人・鳥越新之助、イケメンの軽業師・彦弥、元相撲取りの怪力・寅次郎、天文に通じたハーフの天才風よみ・加持星十郎、竜吐水の遣い手・魁武蔵といった面々の働きで、江戸の大名火消しの中で、どこの火事でもかけつけて手助けをし、人命を一番大事にする「火消し」として江戸市民から声援されるまでになった「羽州ぼろ組」なんであるが、今回は、羽州戸沢藩の家中と残忍な火付け盗賊という両面の「敵」の立ち向かわなければならない事態となるのが、第3弾の本巻「九紋龍」である。

表題の「九紋龍」というのは、町火消「に組」の頭領・辰一(たついち)の別名で、彼は190cmくらいの巨体で、しかも「ぼろ蔦組」の寅次郎に負けないほどの怪力の持ち主である。火付けを働いた下手人を白壁に打ち付けて殺した罪で「江戸払い」となっていてのだが、改元にあわせた恩赦で江戸へ一年前に帰ってきたところである。
「に組」は自分の管轄は単独で守る代わりに、外への応援には出ない。しかも自分の縄張りに助勢にくる火消しは実力で排除するといった「モンロー主義」的な火消しで、どこでも加勢にやってくる「ぼろ鳶」とぶつからないわけがない、というのだが・・、というのが本巻の話の大前提である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 鵺の住む町
第二章 龍出る
第三章 競り火消
第四章 余所者
第五章 江戸の華
第六章 勘定小町参る

となっていて、まずは、最初のところで、今巻の外の敵となる「千羽一家」という火付け盗賊の大坂での犯行のところからスタート。その手口は、まず一軒か二軒の民家に火をつけ、それが燃え上がって、人々が避難したり、野次馬にでたりするところを狙って強盗に入るもので、盗みに入った家の者は全て皆殺し。小さな赤ん坊に至っては、踏みつけにして圧死させるといった、殺しを楽しんでいるかのような犯行を重ねる凶悪犯である。
この盗賊団が、その後江戸で犯行に及ぶのだが、それまで京・大坂では犯行に及んでも、江戸ではやらなかった理由があるのだが、それは物語の後半で明らかになる。

そして、内なる敵は、戸沢藩の御連枝である戸沢正親という若殿様。国元に一時帰国した江戸家老・北条六右衛門が病にかかって動けないため、急遽、代理を務めるため江戸屋敷にやってきて臨時の執政となったという設定なのだが、実はその陰に、田沼意次の失脚を狙う徳川治済が糸を引いていた、という裏の事情が隠されている。で、その戸沢正親が、火消しの経費を含めた江戸屋敷の経費の大幅削減を始めるのだが、例えば竜吐水を売り払うといったかなりの乱暴なやり方も入っていて、これではせっかく立て直した「火消し」が再び壊滅状態になる・・・、というのが、この巻の話の基礎部分である。

話の本筋のほうは、「千羽一家」の犯行と思われる「火付け」とそれに乗じた「強盗殺人」がおきはじめる。大坂にいる長谷川平蔵から千羽一家の情報を得た源吾はなんとか火事と犯行を食い止めようとするが、臨時執政の戸沢正親は「ぼろ鳶組」が管轄外に助勢に行くのを禁じてしまう。
そんな折、火事場で対立していた「に組」の九紋龍・辰一が火盗改めとトラブって、源吾の眼の前で捕まえられ牢に入れられる。さらに、辰一は「千羽一家」のことを知っていて、その犯行を阻止するために動いていたらしいこともわかってくる。彼はどこで情報を得たのか、そして、千羽一家の反抗を、戸沢正親をはじめとした幕閣の妨害の中で、どう阻止するのか・・・、といったのが今回の展開であります。

今巻の見せ所のアクションシーンは、千羽一家が火付けをして大規模に火事が広がる中、牢から「切り放ち」をされた辰一と協力して、千羽一家をあぶり出していくところなのだが、火消しの独特の性質は盗賊は真似できなかったというところがミソですね。
最初のほうはワンマン・リーダーの辰一におんぶに抱っこだった「に組」のメンバーがチームとしてしっかり成長するところも「読みどころ」なのだが、詳細は原書で確認を。

【レビュアーから一言】

最初は世間のことはなにも知らずに権力をふりかざす「バカ殿様」と思われていた「戸沢正親」が実は庄内の人々の貧しい暮らしもよく知っていて、なんとか藩の直しをしようとする「名君候補」であった、ということなんだが、天明から寛政にかけて8代藩主となった殿様も「戸沢正親」というのだが、ひょっとしたら・・・。

そして今巻でも大活躍なのは、源吾の妻・深雪で、正親が徳川治済の意をうけた火消見廻組の旗本の謀略を退けるのに協力してくれた「京極佐渡守」が協力する理由は、深雪と京極家の奥方が仲が良い、ということが根底にあるし、さらには、北条六右衛門が病気療養中で不在のまま開かれる。特産品のお披露目会兼入札会では、老獪な商人たちを相手に見事な差配をするとともに、売出し中の大文字屋こと「大丸」の若主人の協力も勝ち取るといった大殊勲をあげるのであります。

九紋龍 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 

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