火事の裏にある火消しの悪事を火喰鳥は見破るか? ー 今村翔吾「菩薩花 羽州ぼろ鳶組5」(祥伝社文庫)

京都で大規模な火事を起こした「火車」の事件を解決して江戸に帰還した、火喰鳥こと「松永源吾」を中心とする新庄藩大名火消しの活躍を描く「ぼろ鳶組」シリーズの第5弾。

今回の舞台は江戸。「ぼろ鳶組」のメンバーだけでなく江戸の火消しの大きな関心事の「火消し番付」の発表が3ヶ月後となった8月の終わりから火消し番付の発表までのストーリーである。

今回の悪役の陰の黒幕はやはり、一橋卿・徳川治斉で、前巻と今巻の中頃まではなにやら企んでいる気配はあっても具体的な動きを見せなかったのだが、今巻の最後のほうで田沼潰しに鎌首をもたげてきますので、最後までお見逃しなく。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 番付火消
第二章 ころころ餅
第三章 菩薩二人
第四章 鬼は内
第五章 悪役推参
第六章 嗤いを凪ぐ者
第七章 父へはばたく 

となっていて、まずは、一万八千石ながら元禄の頃から大名火消しを務め、火消し大名として有名な仁正寺藩の火消しが経費の増大と火消し番付の結果が良くないことからお役目返上、という危機にさらされるところから滑り出し。今年の番付をあげて有名になれなければ火消し組を解散して「相撲取り」を雇う、という若殿様の考なのだが、よくあるコスパ重視の名を借りた、先代を乗り越える話題作りというやつに違いない。政権交代時に、よくあるやつなのだが、この「番付をあげる」ということを目指した仁正寺藩の火消しの動きが、今巻の展開に妙な煙幕をかけていきますので要注意。

本筋のほうは、「火消し番付」を編成している火事専門の読売書き・文五郎が、取材で火事場を巡っているうちに、準備万端で火事現場に一番にかけつけた「火消し」に疑念を抱くところからスタート。その火消し組に疑念のことを尋ねた彼の行方がその後わからなくなってしまうのだが、真相は物語の最後のほうにつながるので、ひとまず保留。

そして、番付をあげるためには有名どころの三役、加賀鳶であるとかぼろ鳶といったところに先回りして火事を消すのが一番と考えた仁正寺藩のあちこちの火事現場に出張ってきて、一番手争いを繰り広げてトラブル続出。しかも、この仁正寺藩火消し、どこの火事現場にも一、二を争う順番でやってくる。まさか、彼らが番付目当てに火付けを・・・、といったのが謎の二番目である。

この間に、八重洲河岸が管轄の本多家の常火消の頭領・進藤内記という人物が出現。この進藤内記は、火事で孤児となった子どもたちを引き取って育てていて、その中で体の屈強な男の子は武芸を習わせて、八重洲河岸常火消しの配下に加えることもしていて、地元では「菩薩様」扱いの人物。もっとも、この内記と配下の火消したちの関係が「擬似親子」のような、信仰っぽい関係になっていて、ここらが源吾はじめ「ぼろ蔦組」のメンバーが胡散臭がる原因という設定で、「ぼろ鳶組」のフリーダムな良さを対比させてますね。

話が動き始めるのは、加賀鳶の頭領の娘・お琳が、源吾のところ出産祝いの「ころころ餅」をもってくるあたりから。
ころころ餅というのは金沢の風習で出産の一ヵ月前頃の戌の日に、嫁の実家から贈る餅のことで11個入っているのがしきたりさそう。器量の良い子になるよう卵形をしていたり、火傷しないようにけして焼いて食べてはいけない、といったことになっているらしいのだが、詳しくは金沢出身の人に聞いてくださいな。
で、この餅を持参した「お琳」と、ちょうど松永家に遊びにきていた「お七」とが駕籠にのせてもらって家に帰る途中、道に迷っている気配の男の子を乗せたところから彼らの危難が始まる。顔に火傷の傷跡のある武家の火消しらしき男たちに追われることになるのだが、彼女たちは無事逃げ切れるか・・・、といった筋立て。

ちょうど、その頃、仁正寺藩火消しの頭領の柊与市も行方がわからなくなっていて、といったあたりが、このストーカーたちとの関係も伺わせるのだが・・、といった展開である。

謎解きのほうは、「善行に何か胡散臭いもの」を嗅ぎつけた「ぼろ鳶組」の面々の推理がいい線をついていて、火消しアクションシーンのほうも、八重洲河岸常火消しの屋敷で起きた火事が舞台となるのだが、詳細のほうは原書で確認を。

【レビュアーから一言】

この巻でも、いい味を出しているのが、源吾の奥方の「深雪」さんで、出羽秋田藩のお殿様と知り合いになって「菩薩花」の越冬を託されたり、彼女を乗せると富くじに当たったり、捜していた人がみつかるなどの幸運が舞い込む「火消菩薩」として、駕篭かきたちの伝説の人になっていたり、と話題豊富であります。
今巻では男の子も火事場で出産したり、とまさに「火消しの頭領」の奥さん全開であります。

ちなみに、「菩薩花」というのは、「ぶっそうげ」とも言って、ハイビスカスのことであるようです。冬越しには部屋の温度を10゜Cぐらいに保たないといけないらしいので、江戸ではかなりの難事であったと思われますね。

菩薩花 羽州ぼろ鳶組 (祥伝社文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 

【関連記事】

江戸の庶民を火事から守る「火消し組」誕生 ー 今村翔吾「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 1」(祥伝社文庫)

卑劣な「脅し」に負けずに江戸を「付け火」から守り通せ ー 今村翔吾「夜哭烏 羽州ぼろ鳶組 2」(祥伝社文庫)

国元から来た若殿様は、ぼろ鳶組を潰す気なのか? ー 今村翔吾「九紋龍 羽州ぼろ蔦組 3」(祥伝社文庫)

京都に巣食う「火付け妖怪」に「火喰鳥」が挑む ー 今村翔吾「鬼煙管 羽州ほろ鳶組4」(祥伝社文庫)

ナンバーワン花魁の熱い期待に、彦弥はどう応える? ー 今村翔吾「夢胡蝶 羽州ぼろ鳶組6」(祥伝社文庫)

忌まわしい火付け犯復活?明和の大火の再来か・・・ ー 今村翔吾「狐花火 羽州ぼろ鳶組7」

新之助にふりかかる放火誘拐犯の嫌疑を、火喰鳥は食いつくせるか ー 今村翔吾「玉麒麟 羽州ぼろ鳶組8」

大坂町火消をまとめ上げて、火災旋風に立ち向かえ ー 今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」

火消しの「心意気」は世代を超える ー 今村翔吾「黄金雛 羽州ぼろ鳶組 零」

コメント

タイトルとURLをコピーしました