信長の世界雄飛の志は、水軍の若き頭領に届くか? ー 西村卓郎「信長のシェフ 24」(芳文社コミックス)

前巻は戦国の雄・上杉謙信が病死しその跡目をめぐって「御楯の乱」が起きる中、毛利から荒木村重への調略が動き、そして、信長は世界雄飛へ向け戦略を練るってなところで終わっていたのだが、今巻はこれを受けてそれぞれの思惑がぶつかる前夜、といったところが描かれる。

年代的には天正6年5月におきた上杉景勝と景虎の春日山城での衝突の後ぐらいから天正6年10月の荒木村重の反乱のあたりまでが舞台で、織田軍が播磨侵攻をはかるが、本能寺勢や毛利勢の抵抗でなかなか思ったようにいかない時ですね。ただ、10月の荒木村重の反乱、11月の第二次木津川合戦をひかえて、織田VS毛利・本願寺の水面下の駆け引きや策謀が渦巻いていたであろう時期なので、戦闘シーンではちょっと活躍できない「ケン」にとっては力の見せ所で、信長お抱えの「台所衆」(?)の本領発揮であります。

【収録と注目ポイント】

収録は

第198話 瀬戸の海の男たち
第199話 ケンと元吉
第200話 信長と元吉
第201話 したたかなる者
第202話 疑われた者たち
第203話 かすかな疑惑
第204話 動かせぬ心
第205話 中川と荒木

となっていて、まず最初の山場は、ケンが堺の交易の警護船のもとへ「料理」をふるまいにいくよう信長に命じられるところからスタート。

この警固船を請け負っているのが、村上水軍なのだが、今回、ケンが会うのは、能島水軍の若き頭領・村上元吉で、彼を調略するのが信長の本当の狙い、という筋立てである。ケンが「元吉」はじめ海賊たちの歓心をかうために提供した料理は「海亀の煮込み宮廷風」と

このほかに「イソギンチャクのスパニッシュオムレツ 胡桃をまとわせたイソギンチャクのフリット添え」「亀の手と胡桃のカナッペ」

といったところなのだが、少々海賊には「セレブ」すぎるかもしれない。まあ、この高級料理が、すぐ後に村上元吉がケンへ出した「広島の牡蠣を使って最高の牡蠣料理をつくれ」という命令の答のうまい布石になっているのは間違いない。

調略がうまくいったかどうかの詳細は原書で確認してもらうとして、信長が元吉に発した言葉

が、元吉が第二次木津川合戦に参加しなかった原因になったというあたりは的を得ているような気がしますね。

村上水軍については、和田竜さんが、村上武吉(元吉の父親ですね)の娘「景(きょう)」を主人公に「村上水軍の娘」という傑作を書いていて、これは信長側からではなく、毛利・本願寺側からの目線で、戦国ファンはこちらも押さえておいたほうがよいかも(コミックス版もでてますね)

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二番目のクライマックスは、本能寺に内通している武将を探り出すために、堺を経てから内通者の情報をもっているらしい「美濃」の「川筋衆」の本拠での捜査活動と内通者の炙り出しをするところ。村に滞在するために「メープルシロップ」の採集といったネタを使ったり、堺の出入り商人に「チウラ」を使ったシリアルバー、FSR(先頭打撃野戦糧食)を早急につくりたい、と情報提供して内通者の炙り出しをしたり、といった料理人らしい「手段」が見事ですね。
ちなみに作中の「チウラ」をつかってケンがつくりかたかったというのはこんなので、今は類似品をコンビニでもみかけますね。

最後のほうの本願寺に内通している武将というのは、ご存知のとおり、「荒木村重」で、この配下で村重を裏切る「中川清秀」は本作ではかなりドライな戦国武将といった風に描かれているのだが、

中川の妹の旦那「古田織部正」を主人公にした「へうげもの」では真面目一方の人物のように描かれていたと記憶していて、いつか折をみて比べてみようか、と思ったところであります。

今巻は荒木村重が謀反し、第二次木津川合戦の前夜といったところまでで、次巻は、いよいよ本願寺を相手の闘いの踏ん張りどころでありますね。

【レビュアーから一言】

今巻のはじめのクライマックスに登場する村上水軍のところで、信長の言っていた「海賊停止令」は本能寺の変で信長が没した後、豊臣秀吉によって発令される。しかし、その内容は海賊に豊臣家の大名、他の大名の家臣、武装蜂起して農民化を求めるとともに、警固料徴収を禁じるもので、禁令の内容は信長が本巻で喋ることと同じなのだが、その先の「世界雄飛」はないのが、信長とは大きく違うところ。

秀吉が政権を握った当時のスペインなどの南蛮諸国との関係もあったんだろうが、「秀吉の政策は信長の政策の出来の悪いコピー」という陰口があるのもしょうがないかな、と思った次第。

このあたりに村上元吉が秀吉の四国征伐に最後まで参加しなかった理由もあるのかもしれんですね。

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