「和歌」がアイテムの変わり種時代小説はいかが ー 篠綾子「代筆屋おいち」シリーズ

その時代小説の世界に浸れるかどうかは、その舞台設定はなじみのものであるか、あるいは自分の経験の範囲外にある目新しいものであるか、といったところが肝になることが多いのだが、このシリーズの主人公は、田舎から家出してきた娘が「代筆屋」を始める、といったところと、「和歌」が謎を解いたり、物語を進める上でのキーワードになっているところが特徴である。

【構成と注目ポイント】

第一巻「梨の花咲く」の構成は

 第一話 歌占師
 第二話 子故の闇
 第三話 春の雪
 第四話 ま幸きくあらば

となっていて、「おいち」という娘が、恋人の「颯太」を追って、下総の真間村(今の千葉県市川市のあたりですな)から家出してくるところからスタート。「おいち」は母親が駆け落ちした上での子供であるので、実の祖父からは疎まれていて実家にも居づらくなった上に、恋人が突然の失踪をしてしまった、という設定である。

こういった家出娘の行き先は大概、「都会地」と決まっていて、今巻の場合も行き先は「江戸」で、そこで悪党に騙されそうになっていたのを、歌占をしている「露寒軒」に助けられ、彼の手伝いをすることとなる、という、少々パターン化した筋立てなのだが、「歌占い」の手伝いの傍ら「代筆屋」を始めるというのいはユニークなところかな。第一巻では、この「露寒軒」こと「戸田茂睡」の女中の「おさめ」の別れた子供との再会を仲介したり、上問屋の小津屋の手代・仁吉のその店のお嬢様・美雪へ恋ごころを届けたり、といった感じで展開していくのだが、このシリーズの舞台設定を整える巻でありますね。

Amazonのレビューでは薄味の展開、と酷評もあるのだが、シリーズが進展するに従って味が濃くなるんで、ここは辛抱のしどころでありますね。

梨の花咲く―代筆屋おいち (ハルキ文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第二巻「恋し撫子」の構成は

 第一話 筆供養
 第二話 たらちねの
 第三話 果たし状参る
 第四話 天狗の投げ文

は、おいちの故郷から従兄弟の「お菊」がやってきたり、露寒軒の歌占の客の「お妙」の母親との喧嘩を仲裁したり、といった展開。お妙は養子で、彼女の母親は以前は八百屋を営んでいてのだが、当時、一人娘が若死したのだが、徳川綱吉の時代、「八百屋」と聞いてピンとくる人は、元禄「通」に間違いなし。
「果たし状参る」で知り合った北村季吟の縁で、柳沢吉保の屋敷で「筆記」の奉公をすることが、次巻以降の急展開に結びつきます。

恋し撫子―代筆屋おいち (時代小説文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第三巻「星合の空」は

 第一話 墓荒らし
 第二話 一筆啓上
 第三話 秘帖
 第四話 織姫の詫び状

という構成で、登場人物のいろんな秘密が顕になってきたり、話が一挙に動き始める巻ですね。
第一話では、颯太の姉。七瀬が実は刑を免れた有名な火付けの犯人であることがわかったり、露寒軒こと戸田茂睡の実家や孫息子の様子などがわかってきます。第三話で、颯太が命じられた内容をみると、この戸田茂睡という人物、第一巻、第二巻では偏屈な歌人という印象しかなかったのだが、駿河大納言の徳川忠長に仕えていた前歴があったり、京都の公家とも関係が深いなど、幕府にとっては、何をするかわからない疑惑の人物であったのかもしれないですね。

最後の「織姫の詫び状」は紙問屋・小津屋の一人娘・美雪の前夫との話なのだが、前三話のような昔の秘密がぼろっと転がりだして、といった風合いと違った、美しい仕立ての情愛話ですね。ここは口直しにどうぞ。

星合の空―代筆屋おいち (ハルキ文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

第四巻「おしどりの契り」はシリーズ最終巻で

 第一話 ありやなしや
 第二話 七重八重
 第三話 山吹小町
 第四話 契りし言の葉

という構成で、第一話で、再び家出してきた「お菊」が「おいち」を伴って実家へ行き、おいちに冷たくしてきた祖父にガツンと食らわせるところは、「よくやった」といいたくなる爽快さがありますね。
そしてメインは、囚われの身となった颯太が無事救出されるか、というところと颯太とおいちfが再会できるか、というところ。この難題を解決するのは、姉の七瀬こと「お七」のファインプレーで、持ち前の美貌を活かして顔出ししての「歌占と代筆」のPRが効果を上げます。

おしどりの契り―代筆屋おいち (時代小説文庫)
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【レビュアーから一言】

シリーズを通じて、バトルシーンや政権闘争などの時代小説につきもののところはほとんどないので、時代小説ファンには物足りないところもあるかもしれないが、「和歌」というものが生活の中にあった頃の、ちょっと変わった味わいの時代物と考えれば、「変わり種」としての楽しみようがありますね。

血なまぐさい戦国モノや、暗闇の中で暗躍する陰謀モノにちょっと飽きた時の「口直し」としていかがでしょうか。

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