着物品評会での毒殺事件は大店の娘誘拐事件へとつながる ー 有馬美季子「はないちもんめ 秋祭り」

三世代で経営する日本橋の居酒屋を経営する「お紋」「お市」「お花」の三人と店の常連の同心・木暮といったキャストで展開される居酒屋捕物帳「はないちもんめ」シリーズの第2弾である。
今話では、奥さんの尻の下に敷かれている上に、はないちもんめの三人にもいいようにからかわれている同心・小暮の下っ引きの大男・忠吾のカミングアウトした姿と、同僚の同心・桂の名前通りの「頭」の秘密がでてくるのでお見逃しなく。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 秋刀魚飯で〆まんさ
第二話 食べ物柄の着物
第三話 南瓜すいとんの秘密
第四話 団子に枇杷で不思議哉
第五話 けんちん汁でほっこりと

となっていて、今巻は、儲かっている商家の娘が連続して誘拐される事件の謎解き。「序」のところで、誘拐された娘が意識が薄れる中、チクチクと刺す痛みを感じるのだが、これが犯人の歪んだ嗜好に関係しているので、最後のほうまで覚えておきましょう。

まず第一話は、「はないちもんめ」の秋の旬料理がテーマ。安くて旨い料理、というのが信条なので、秋刀魚の天ぷら、秋刀魚飯といった秋刀魚づくしなのだが、このPRでつくった宣伝コピーが第一話の表題。いわゆる「回文」となっているのだが、これが後で謎解きのキーとなりますね。
話の方は、「日本橋亥の刻祭り」での着物品評会とその後の食事会で動き始める。この着物品評会で、4人の女性が着物の新図案を発表してコンテストをするのだが、この優勝者・お定が、コンテストの後の食事会で急死するという事件が勃発。コンテストのときから何か憔悴していて、体調が悪かったのかと思われたのだが、事件が起きた時に立ち会った医師の流源の見立てでは「微量ではあるが何かの毒をくちにしてしまったから」というもの。

この娘、ちりめんなどで花の模倣品をつくる「造花師」という商売をしているのだが、捜査していくと、娘の勤める造花屋「幾花」の主人とデキていることがわかる。この「幾花」の女房はとても嫉妬深くて、このことがバレると「お定」に復讐するぐらいの気の強さであるらしい。また、コンテストの他の出場者である、人形師のお豊、お針子のお峰、造花師のお直たちも、「お定」にいい感情をもっていないことがわかる、といったことで容疑者が乱立という筋立てである。

さらには、この「お定」は江戸に出てくる前に内藤新宿の旅籠で飯盛り女をしていて、その旅籠で起きた放火による火事のどさくさに紛れて、借金を踏み倒して逃げていた、ということがわかる。その時にいつも頭巾をかぶっていて顔を見せないなじみ客と一緒に逃げたといったことや、コンテストの出場者「お豊」もこの旅籠で飯盛り女をしていて、同じ火事のどさくさで逃げたていてことも判明し、一皮剥くと、いずれも隠したい過去をもっていることがわかるのだが・・、という展開。

今回の謎解きの鍵は、「お定」が遺した「半襟」に縫い付けられていた文字で、「春萌えに木の芽うすらむ 団子げにうれ ゆかりたい枇杷の子」というもので、ネタバレを少しすると、コンテストの殺人事件での「毒殺」の見立てが、巧妙に真犯人へ行き着く邪魔をしているのと、「回文」がヒントになるのだが、詳しくは原書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

秋が舞台らしく、あちこちに旨そうな料理が登場する。最初の「はないちもんめ」の旬料理である、「醤油と味醂と生姜を合わせて煮た秋刀魚の生姜煮」とか「ぶつ切りの秋刀魚をごろごろ入れて、醤油と味醂、酒の鰹出汁で炊き込み葱をちらした秋刀魚飯」や「酒と醤油で味付けし、生姜を刻んで入れて蒸した赤貝の酒蒸し」などなど。このシリーズでは詳しい料理描写がないのが当方には少々不満なのだが、その分想像力をたくましくいたしましょうか。

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