「児童書」は「大人」の必読書でもある ー 出口治明「教養は児童書で学べ 」(光文社新書)

「子ども」に物事を教えるというのは意外に難しいもので、余計な夾雑物や邪心があると、子どもはしっかりと見抜いてしまうもの。
これは「本」の場合も同様であるらしく、本書によれば、

いい児童書は、無駄をすべて削ぎ落としたうえで、ていねいに作ってあるのです。
児童書は、子どもの気持ちにならないと楽しめない本ではなく、優れたものは、子どもが子どもとして楽しめるのと同様に、大人も大人として楽しめます。

ということで、児童書はまっとうで良質な「大人の本」として扱うべきであるようだ。

本書は、そんな児童書の中から、当代きっての読書家である出口治明さんがとびきりの10冊をチョイスして「読みどころ」を解説したのが本書である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 『はらぺこあおむし』には宇宙がぜんぶ詰まっている
第2章 『西遊記』ははちゃめちゃだけど愉快痛快
第3章 『アラビアン・ナイト』でわかる、アラブ人ってほんとにすごい。
第4章 どんな人生にも雨の日があるから『アンデルセン童話』を読む
第5章 『さかさ町』で、頭と心をやわらかくする
第6章 「エルマーのぼうけん』には子どもの「大好き!」がテンコ盛り
第7章 『せいめいのれきし』で気づく、いまを生きることの大切さ
第8章 毒があるから心に残る『ギルガメシュ王ものがたり』
第9章 「効率ばかり追って幸せですか?」と『モモ』は問いかける
第10章 大人も子どもも『ナルニア国物語』を読もう

となっていて、とりあげられている本は、児童書といっても、絵本から神話、童話までかなり幅広いともに、誰もが子供の頃に一回ぐらいは手にとったであろう本も含まれていて、子供の頃の本を手にして感じた楽しさや面白さを懐かしく思い出す人も多いと思う。

ただ、取り上げる本の本書の「読み方」がそうした幼い頃の思い出であるわけもなく、例えば「はらぺこあおむし」のところでは

成長していくあおむしをこのような形でていねいに描いているのは、子どもに、ダーウィンの進化論の初歩を教えているような気がするのです。
ダーウィンの進化論は、世の中のものは全部変わっていきますよ、それは想像もできない変わり方をするものですよ、というもの。つまり、何が起こるかわからないというのが世の中の真実で、だから人間ができること、生物ができることは、目の前で起きたことに対応するだけだと言っています。運と適応が、ダーウィンの進化論の本質です。

であったり、「エルマーのぼうけん」のところでは

たった一人で冒険に出るエルマーですが、役に立ちそうなベンロな道具は、一切持っていません。弓矢や鉄砲など戦うための武器を使うこともありません。
(略)
『エルマー』を呼んだ子どもは、体力や腕力がなくても、自分なりに工夫したり、知恵を絞ったりすれば、世の中の和t利方なんていくらでもあると理解するのではないでしょうか。
ちなみに、エルマーが初めて冒険にでるときに用意したものは・・輪ゴムや磁石、リボン、キャンディーなどどれも現実的なものばかり。
(略)
大人の視点からはムダのように見えるものが、この物語のなかではものすごく役に立つのです。

といった感じである。どうです。今まで子供の頃に読んだ時の印象がガラっと変わってしまうでしょ。

このほかにも、「せいめいのれきし」のところでは、作者のバージニア・リー・バートンがこの本を8年がかりでつくったほどの調べ物好き」で、ケーブルカーの登場する作品を書いたときにはケーブルカーが運転できるぐらい徹底的に調べたといったエピソードや、「せいめいのれきし」が科学の進展で新たなことがわかったことを反映してリニューアルがされてきていることを教えてくれたりと、すこしばかり「ドヤ顔」のできるTipsもあるので、ここらを覚えて奥さんや子供さんに喋ってみると、少しは見直されるかもしれません。

【レビュアーから一言】

大人が「児童書」を読むと、すでに忘れてしまった子供の頃の思い出とか純粋さを思い出せるとともに

大人になるということは、たくさんのものごとを知って賢くなるという面と、ものごとを知ることでかえってものごとの本質が見えにくくなるという面の両方がある。「子どもは大人の父」と言います。成長とは、愚かな子どもが一直線でだんだん賢い大人になっていくことではないのです(P168)

とか

私たちは、ついつい人間が万物の霊長で一番上にいるのだと思いがちですが『ナルニア国物語』を読んでいると、動物や妖精にもそれぞれの世界があって、決して人間だけがすぐれているわけではないことがわかります。
人材の多様性のことを最近はダイバーシティと読んでいますが、それは人間の世界だけにとどまるものではありません。いりいろな生き物がいて、この世界は成り立っているのです(P273)

といった、大人ならではの解釈・理解に行き着くことができることも多い。あなたの好きな「児童書」を読み直してみてはいかがでありましょうか。

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