座敷わらしのアナザーストーリーはいかが ー 西條奈加「睦月童」

表題の「○○童」という言葉を聞くと、住み着くと家の繁栄をもたらすという岩手県を中心に伝説のある「座敷童子」のことを思い浮かべるのだが、それとはちょっと趣を異にするが、同じような不思議な能力をもった「童」と外界のお話が本巻『西條奈加「睦月童(PHP文芸文庫)』。

座敷童子の場合は「赤面垂髪の5、6歳の小童」という話が多いのだが、今話で登場するのは、やせっぽちで上を向いた鼻先と味噌っ歯の、10歳ということなのだが小さいため、7歳ぐらいに見える女の子である。そして、やましいことを隠している者が、その目を見ると「金色」に光って見えた上に恐怖にかられ、思わず白状してしまうという能力をもっている。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 睦月童
第二話 狐火
第三話 さきよみ
第四話 魔物
第五話 富士野庄
第六話 赤い月
第七話 睦月神

となっていて、まずは陸奥盛岡の山中にある「富士野庄」から「イオ」とい名の「睦月童」が下酒問屋の国見屋にやってくるところからスタート。この童子は、息子が荒れていることを治そうと、国見屋の主人・平右衛門が呼んだのだが、息子が改心するより先に、手代の使い込みが判明するというおまけ付きとなる。

第一話は、この「イオ」に出会った国見屋の息子・央介の悪事に関する話。央介の両親は、彼が「風神一家」という押し込み強盗の仲間になっているのでは、と心配していたのだが、これは誤解。門前市の土産物屋の老主人に乱暴した、という小悪党ぶりなのだが、イオに出会ったおかげで、央介だけでなく、彼とつるんでいた仲間も改心したというのだから災い転じて、というやつだろう。読みどころは、彼の仲間が土産物で罪を償うところで、ほんのり温かくなる仕上がりである。

第二話からは、イオのお世話役のようになった央介が、イオとともに江戸の町で様々な怪異っぽい事件に遭遇する話が続く。

第二話は、夜鷹の稼ぎ場所である川岸に狐火が出没する話。央助とイオは夜鷹の元締めをしている「鯨の勇五郎」とともに捜査を始めるのだが、狐火が近くに出没するという「おふで」という夜鷹に出会う。彼女は、亭主の薬代を稼ぐため、昼間は飯屋、夜は夜鷹をやって生活を支えている。彼女に周辺に「狐火」が出現するわけは・・・、といった展開。狐火にこめた願いが、闇を引き寄せる皮肉な展開ですね。

第三話は睦月童の「イオ」と同じ里から江戸を出てきている「ルイ」という娘に出会い、彼女の江戸を離れて国元に帰りたい、という頼みに関わる話。
このルイという娘は妊娠しているのだが、その相手は日本橋小松町の結納品問屋・掛井屋の若旦那。ところが、この若旦那、近々、大きな刷物問屋の娘と祝言をあげるらしい。てっきり、金に目がくらんだと思った央介たちは、この若旦那をとっちめようとするが、実は若旦那もルイに惚れている。そこには、イオとルイの故郷の「睦月神」に関係する秘密が隠されていて、という展開となる。

第四話は、江戸の街なかをイオと央介が散歩中に出会った旗本・小出豹介の依頼で、同僚の旗本・氏家東十郎をイオの目で確かめることが発端となる話。その家では、家族や家臣の出奔することが相次いでいて、不審を抱いた本家に「小出」が頼まれたという次第。「氏家」を見たイオは「人の形をしているのに中身は藁だった」と言って泣き出してしまう。この旗本が抱える「闇」はなんなのか・・、といった筋立て。

第五話からは、第四話で知り合った旗本・小出が、イオたちの故郷「睦月の里」の「睦月神」を滅ぼそうとする企みに巻き込まれる。
小出は実は十数年前に「睦月の里」の出身の「ナギ」という娘と恋仲となったのだが、その「ナギ」から頼まれたというのである。
「睦月の里」と関わることが運命だと察した央介は、イオとともに睦月の里へ行くのだが、そこで彼が出くわした里の民たちはいずれも美しく歳をとっていない女性ばかり。この睦月の里と睦月神の秘密は何なのか?、そしてこの里を潰そうという旗本・小出の企みは成功するのか・・、といった展開になるのだが、ここら今話のキモでもあるので、これ以上のネタバレはなし。原話で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

座敷童子風の怪異譚から、伝奇ものに発展していくあたりは、ファンタジーものがデビュー作であった作者らしい。最後の方はちょっと物悲しい結末ではあるのだが。明るく飛び跳ねる「イオ」の姿が救いにはなりますね。

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