「なつめ」は「しのぶ」の憂いを晴らすことができるか ー 篠綾子「しのぶ草 江戸菓子舗照月堂4」(時代小説文庫)

京都の青侍の娘ながら、実家の両親が急死し、兄は行方不明という苦難にあった少女「なつめ」が、江戸へ出て女性菓子職人の途をめざす姿を描いた「江戸菓子舗照月堂」シリーズの第4弾。

前巻までで菓子職人に見習いとして主人の補助をすることを認められ、さらには、商売敵の娘ではあるのだが、菓子愛で共通する「しのぶ」という友人もできて「リア充」状態の「なつめ」であったのだが、ライバル氷川屋が、照月堂・辰巳屋潰しの策を本格的に可動し始め、一挙に商売戦争の気配が強まってくるとともに、友人・しのぶとの仲も心配になってくるのが本巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 鬼やらい団子 第二話 うぐいす餅 第三話 しのぶ草 第四話 六菓仙

となっていて、前巻では、露寒軒のおかげもあって、うまい具合に照月堂と辰巳屋で「たい焼き」のシェア分け合いに成功して万々歳と思っていたのだが、ライバルの大手菓子舗・氷川屋が、「たい焼き」の屋台での販売を開始し、一挙に商売戦争に突入する。

この氷川屋のやり方は、大型の焼き型を使って、大量に「「たい焼き」をつくって販売する上に、近くの茶店ともタイアップして疑似イートインも提供するという方式で、ライバル店に難癖つけて休店させたり、職人を引き抜きしようとしたりする悪辣な商売敵ではあるが、「ビジネス」の上手さは「氷川屋」のほうに旗が上がりますね。売れ筋と見るとすかさず資本投入してくるところは、現在の「大手企業」と変わりません。 そして、こうした大手の「大量廉価販売」+「タイアップ商法」に中小企業が泣きを見させられるのは現代と同じなのだが、ここでニッチな「ブルーオーシャン」の道を探し出してくるのもまた同じである。 この話の中程に学者か医者のような身なりの侍が、「子たい焼き」を大量に勝っていうシーンがあるのだが、これはこれからの久兵衛の大勝負の引き金となるので、覚えていおいたほうがよいです。

第二話の「うぐいす餅」と第三話の「しのぶ草」は前編・後編のようなつくりになっていて、はじめのほうは、氷川屋の辰巳屋の「辰焼き」つぶしに腹を立てる露寒軒などの描写を通じて、氷川屋の娘・しのぶの父親への反発が強まっていくところが強調される。 途中の菓子屋が古手の腕利きの職人を引き抜かれて潰れてしまう話は、氷川屋がやった話ではないものの「しのぶ」が父親への怒りを深くするネタにつかわれているのだが、実は他の展開へつなげる伏線になっていると邪推するのだが、どうだろうか?当方は、寒川屋の若手腕利き職人・菊蔵あたりに関係しているのでは、と思っているのですが・・。

話の本筋のほうは、父親の容赦ない悪辣なビジネスで気が沈んでいる「しのぶ」を慰めるため「なつめ」が、「しのぶ」の母親の思い出の草餅を再現することとなる。草餅といえば、「よもぎ」が一般的なのだが、「しのぶ」の記憶によれば「蓬の草餅」が出回る頃と同じ頃に母親が作ってくれたのだが、当時、「青物」が嫌いだった彼女が美味しく食べられるほど草の香りの薄いものであったらしい。果たして、どんな草を使って、しのぶの母親は「草餅」を作ったのだろうか・・という展開。謎解きのヒントは、しのぶの「青物」つまりは「野菜」嫌いと、蓬の草餅が出回る「七草」の時期というあたりですね。

最終話の「六菓仙」では、照月堂の久兵衛の紹介で、京都の菓子の名店で修行を始めた安吉の姿が最初に描かれる。彼が修行させてもらっているのは果林堂という、照月堂の久兵衛が若い頃に修行した名店なのだが、この店の主人・九平治は柚木家という代々宮中で菓子作りを行う主果餅(くだもののつかさ)の職を務める家の養子となっている。この柚木家にはちゃんとした男子がいるのだが、金に困って養子をとったという事情らしい。こんな話の常として、その柚木家の本当の跡取り・長門は家を継いで菓子をつくりたいのだがそれが叶わず鬱屈していて、という設定。この巻では、安吉を専用の下僕にした長門の我儘な振る舞いが描かれるまでなのだが、ここらが「なつめ」の京都の実家の惨事の秘密に関係してくるんですかね。

話の本筋は、第一話で「子たい焼き」を大量に買っていった武家の正体が、幕府の歌学方の北村季吟と湖春の親子で、照月堂のつくる主菓子の出来が良ければ北村家の「御用達」にしようという話がもちかけられる。歌学方の出入り商人となれば、箔もついて、さらに多くの客がやってくることは間違いない。 主菓子の名店となることを目指す照月堂の主人・久兵衛は、「六菓仙」という、練切や吉野羹、葛を使った「六歌仙」にちなんだ「六菓仙」という菓子をつくるあがる。さて、その内容は・・、といった展開。どんな菓子なのかは、原書でご確認ください・

【レビュアーから一言】

幕府の歌学方からの試しの注文が入ったということで、これからさらに名を上げていくチャンスのでてきた照月堂の久兵衛なんであるが、これを知った「氷川屋」がどんな邪魔をしてくるのか、ってなころが心配になってはきますね。ただ、北村季吟・湖春親子は、時の老中・柳沢吉保のお気に入りでもあるので、ひょっとすると、話は菓子づくりから政争の色合いがでてくるのかも、ってなことを考えてしまうのでありますが、どう展開するのでありましょうか。

しのぶ草 江戸菓子舗照月堂 (時代小説文庫)
しのぶ草 江戸菓子舗照月堂 (時代小説文庫)

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