京都料理のライバル店登場。客足を戻す手立てはあるか ー 有馬美季子「源氏豆腐 縄のれん福寿4」

疾走していた夫の行方を追って、東京の多摩地方を一月ほど旅をし、その夫との思い出やなんやかやをきっちりと精算することのでできた「お園」であったのだが、江戸へ帰って早々に「店の存続の危機」が起きる。
というのも、彼女の留守中に、近所に京料理の名店が店を開き、「福寿」の客はほぼ根こそぎ、その店の客になってしまっていた。
さて、この店の難局を、「お園」はどう解決するのか、というのが「縄のれん福寿」シリーズの第4弾『有馬美季子「源氏豆腐 縄のれん福寿4」(祥伝社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

お通し 近いの蚕豆
一品目 紫陽花菓子
二品目 鯔背な蕎麦、艶やかな饂飩
三品目 祝の膳
四品目 おろしやの味
五品目 源氏豆腐

となっていて、まずは、お園が江戸は帰り、店に顔を出した途端、留守を頼んでいた、八兵衛とお波夫婦から、近くにできた「京都料理」の山源に客を皆とられてしまったという話を聞くところからスタート。

「それは大変」と反応してしまいそうになるのだが、料理人の経験や料理屋の経営をしたこともない素人に一月も店を頼んだ上に、ライバル店となる「山源」は料理人を複数抱える、上方の名店で、「福寿」から客を奪うために卑劣なことは全くしてしない、ということなので、ここは「お園」の油断とお客をないがしろにした結果と言わざるをえないですな。
まあ、ここで「お園」を批判する気持ちに傾いていかないのは、山源の板前が女料理人を認めなかったり、江戸の料理をバカにしたり、といった嫌味なところと「お園」が愚痴をいわずに頑張る仕立てにしてあるあたりで、ここは筆者の設定のうまさですね。

で、話のほうは、京都料理屋・山源に奪われたお客を、お園が地道に取り戻していく手立ての数々が描かれていくのだが、八兵衛の家に捨てられていた赤ん坊の母親の実家の心を、鈴木春信の絵にちなんだ「紫陽花」の菓子でときほぐしたり、店を会場にしてお見合いパーティーのようなものを企画したりするのだが、客足を戻す一番の大行事は、ロシア帰りで江戸の屋敷に軟禁状態の「大黒屋光太夫」の心をロシア料理で解きほぐすあたりですかね。

もっとも、福寿が客を奪われた「山源」とのマーケット争いは巻を通じて熾烈に続くこととなる。特に「山源」のレシピが外に流出し、そのレシピを使った京都料理屋まがいが多数出現することも起きるのだが、お園がその犯人だという陰口は最後のほうまで続くことになりますね。レシピ流出の犯人は、想像どおり「山源」の関係者の内部犯なのだが、真犯人は原書で確認してくださいね。

【レビュアーから一言】

毎巻、一風変わった料理の出てくる本シリーズなのだが、今巻では表題にもなっている「源氏豆腐」。これは、「豆腐百珍」にも出ている料理らしいのだが

切った豆腐を笊に入れ、振って角を取る。
それを炒め、赤味噌、酢、砂糖、辛子で味付けする

というもので、源氏の旗は白、平家の旗は赤なので「赤(味噌)を食らう」という意味で名付けられたもので、酸っぱさと仄かな甘みと辛さが混じり合った複雑な味わいらしいのだが、江戸時代のエスニック豆腐料理といったところでしょうか。

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