「艦これ」にも登場する軍艦内で起きる事件を「解決セヨ」 ー 山本巧次「軍艦探偵」

太平洋戦争が終結してから、2019年で74年を経過していて、当時のことを実体験として経験した人々も少なくなっているのだが、当時の海軍の軍艦を舞台に、元会計士出身の「短期現役士官」の主計将校の池崎幸一郎が、渡り歩いた軍艦の艦内で起きる事件の数々を解決していく、という筋立てなのが、本書『山本巧次「軍艦探偵」(ハルキ文庫)』である。

「短期現役士官」というのは、本書によると「大学た高等専門勝っ号の法学・経済学部卒業生の中から、志望者を募り、海軍経理学校終了後に、海軍主計士官として任官される」というもので、「主計」というのは、砲弾や燃料の供給から衣食住の提供・給料の支払い、備品や消耗品の調達など全ての雑多な仕事を請け負う、今で言う総務課+経理課といったところの仕事である。そんな部署の「課長補佐」さんが、各支店内でおきる事件の数々をサクサクと解き明かす、といったイメージで読んでもらえばいいだろう。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ 昭和二十九年六月
第一話 多すぎた木箱 ー戦艦榛名ー
第二話 怪しの発光信号 ー重巡最上ー
第三話 主計科幽霊譚 ー航空母艦瑞鶴ー
第四話 踊る無線電話 ー給糧艦間宮/航空機運搬艦三洋丸ー
第五話 波高し珊瑚海 ー駆逐艦岩風ー
第六話 黄昏の瀬戸 ー駆逐艦蓬ー
エピローグ 昭和三十年五月

 

となっていて、本編的には、昭和15年(1940年)の夏から昭和20年夏までの物語。日中戦争の発端といわれる盧溝橋事件が昭和12年(1937年)、太平洋戦争の発端のパールハーバーが昭和16年(1941年)12月であるので、戦争の開始から終戦前夜までの時代背景的には、戦争がどんどん激化している中での物語展開となる。

第一話の舞台は、佐世保湾の南東の針尾島に停泊している戦艦・榛名の中でおきた、野菜を積んだ「木箱」の消失事件。ただ帳簿上は積み込む予定の木箱の数と合致しているので、食糧補給の時に一箱多く積み込んで、艦内で消えてしまったという怪事件。木箱といっても縦横1メートルくらいある大きなものなので、運び出せばかなり目立つはずなのだが・・という筋立て。この時に連合艦隊司令長官の山本五十六長官の視察も予定されているのだが、これが事件が起きる遠因となっているというのはなかなか気付きませんな。

第二話は呉軍港停泊中の巡洋艦・最上での事件。夜の10時過ぎに、甲板を歩いていた池崎は、向いに停泊中の「鈴谷」とこちらの「最上」との間で妙な発光信号がかわされているのを発見する。信号を送り合っていたのは、兄弟の兵士で、母親の病気の様子を知らせあっていたのだが、と主張するのだが・・・、という展開。この兄弟の兄の方、向田一等兵はこの後でも登場してくるので覚えておいてくださいね。事件の真相は、女性は女性でも母親ではなくて、彼の馴染みの娼家の女が関係しているのだが、といったところ。

第三話は昭和16年晩秋、行き先も乗組員には伝えられずに出航した空母・瑞鶴の倉庫でおきた幽霊の目撃事件。夜遅く、見回りをしていた主計科の兵士が、倉庫に積まれた木箱の向こうに水浸しで顔が腫れた様子の幽霊が立っているのを目撃した、というのだが、その正体は本当に幽霊なのか・・、という筋立て。少しネタバレすると当時の軍隊につきものの「銀蝿(食糧を盗み出すこと)」と「上官のシゴキ」が事件の鍵ですね。

第四話はパラオに停泊中の輸送船の三洋丸から、意味をなさない通信が発せられた、という事件。通信は、三洋丸内の使われていない予備の無線室から発せられたようなのだが、一体誰が何の目的で通信したのか?、ひょっとするとスパイ事件か・・、といった展開。

第五話は、オーストラリア領の「ヌーリア島」で陸軍の守備隊の撤退を助けて、彼らをラバウルまで輸送する途中で起きた、陸軍の兵士一人の転落死事件。転落した兵士と一緒にいた陸軍の他の兵士三人の証言では、船酔いしてふらふらしているときに揺れた船でバランスを崩して落ちた、というのだが、それまでにこの四人が揉めているのを目撃した池崎は事故死ということに不審をいだき・・という展開。この巻から、第二話で登場した向田一等兵と同船になるのだが、この第五話と第六話では彼が事件の深く関係することとなりうますね。

第六話は終戦間近い昭和20年の夏、呉に停泊中の駆逐艦・蓬での事件、というより事故かな。駆逐艦・蓬に乗船していた池崎と向田であったのだが、すでに制空権を握っていたアメリカ軍のグラマンによって蓬が爆撃を受け浸水する。主計担当として、重要書類と天皇陛下の御真影を運び出すことに成功したのだが、向田はほかに大事なものがある、といって船内に戻ろうとする。そこにグラマンの機銃掃射が襲い・・、といった展開。彼が何を運び出そうとしていたかは、エピローグのところで明らかになりますので、詳細は原書で。

【レビュアーから一言】

すでに70年以上前の時代の、戦時下の話であるので、様々な意味で、通常のミステリーとは違った風味のなるのは間違いない。しかも、軍艦内、というさらに変わったシチュエーションの中であるので、アナザーワールド感たっぷりのミステリーに仕上がっているので、一種の「時代ミステリー」としても楽しめる出来である。

そして、最後のほう、引き上げられ再び現役として使うために修理されているかつての駆逐艦・蓬の前で、主人公の池崎が「日傘に下に見える横顔は、なかなかの美形である。・・ただだいぶ化粧なれしているように見える。」という風情の女性に会うところでエンディング。彼女は昔満州にいて、よく知っている人がこの艦に乗っていたというのだが・・・、といったところは、ちょっと古い漫画ですが、古谷三敏の「寄席芸人伝」に収録されている「茶帯の都楽」を思い出してしまいましたね。

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