”デザイン思考”の大御所が語る佐藤可士和「世界が変わる「視点」の見つけ方 」

佐藤可士和さんといえばビジネス現場で「デザイン」というものが語られるようになった、その大元締めというか元祖的なイメージが当方にはある。

その佐藤可士和氏の「デザイン論」を語った第一章と第三章の間に、慶応大学で氏が「未踏領域のデザイン戦略」というテーマで講義と実習を行ったときの記録を挟めた、デザイン思考お理論と教育を語るといった感じに仕上げられているのが本書『佐藤可士和「世界が変わる「視点」の見つけ方 (集英社新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

巻頭言 デザインの可能性について
第一章 「デザイン」を広義に解き放つ
第二章 「未踏領域」をデザインするー慶應SFCでの実践記録ー
 1 授業の組み立て
 2 学生たちのプレゼン事例
 3 学生たちの感想
 4 Q&A
 5 対談 佐藤可士和×オオニシタクヤ
第三章 「視点」をつかむためのヒント

となっているのだが、今回は、第一章と第三章を中心にレビュー。
当方が、まず注目したのは

アウトプットがグラフィツクでも、プロダクトでも、あるいは空間でも、僕の場合、常に核に置いているのは「コミュニケーション」です。
いい換えれば、僕のデザイナーとしての専門領域は「コミュニケーションのデザイン」であり、そのコミュニケーシヨンを最大化するメディアとして、グラフィツクや空間がある、という思考プロセスになります

というところで、「デザイン」というとどうしても「ビジュアル」なアート的なものを思い浮かべるのだが、佐藤可士和氏の「デザイン」とはそれとは違って、よりビジネス活動や日常生活の活動に近いところにあるようである。

その意味で

実は僕が仕事をする時、「チームをまとめよう」とは、あまり強く考えていないのです。
なぜなら、それが目的ではないからです。
結果を出すことが目的なのです。
その代わり、仕事をする上でプロジェクトのベースとなる「座組み」が大切だと考えています。

であるとか

その意味で、自分の日の前にある前提というものが本当に正しいのか、虚心坦懐に”疑う″ことがとても大切なのです。
前提を疑い、そこからクライアントに繰り返しヒアリングを重ねることで、僕は本当の問題を突き止めようとします。
人でもビジネスでも、問題の根は表からは見えないところにあります。

といったあたりは、「デザイン思考」ということと離れて、ビジネスの基本としておさえておくべきだろうな、と思う次第である。

さらに慶応大学の学生向けの講義の中でアドバイスされる

途方に暮れる学生を前にした時、僕はまず「問題を『自分事化』しろ」と、繰り返し伝えます。
自分事化とは、その問題を社会的なものとしてではなく、自分の側にひきつけて考えること。
その問題のどこに自分との接点があるかを見つけることです。
あらゆる分野で成功している人たちは、まさに問題となる対象を自分事化できている人たちです。
僕自身も、すべてのプロジェクトで必ず最初に考えることは、どこに自分事化する接点があるか、ということです。
自分事化をしないで始めてしまうと、リアリティを伴った説得力のある答えが導き出せない

であったり、

学生時代に頭から煙が出るほど考えたり、終わりのないディスカツションをしたり、ものづくりに徹底的にのめり込んだりと、そういう経験がないと、後で困るんです。
クリエイションの本質に触れたことがないと、突き抜けたものが作れません。

ということは学生だけでなく、若いビジネスパーソンにも参考になるんではないでしょうか。

このほか「 何かをデザインしていく中では、プロトタイプをどんどん作って検証する、というプロセスが大切ですね。」とか「リーダーシップとは表面的なことではないんです。「おらおら系」は、一見リーダーシップをとれるように見えて、実はとれないタイプ。」といったTipsもぽろりぽろりと出てくるので、詳しくは原書で確認してください。

【レビュアーからひと言】

「自分にはセンスがないから・・・」と敬遠しがちな「デザイン思考」や「コンセプトづくり」なのだが、筆者によれば

自分自身の経験からいえるのは、「コンセプトメイキングのスキルは、訓練で磨くことができる」ということです。
本質をつかもうとあきらめずに取り組んでいけば、上昇曲線がぐっと上がる時が訪れますし、一度、その感覚を覚えてしまえば、それに沿ってスキルはどんどん上がっていきます。

ということなので、ハードルが高いか低いかは気にしないで、取り掛かってみるのが一番であるようだ。
佐藤可士和さんのビジネス本は数多く出ているので、すでに他書を読んだ方もあるとは思うが、そんな方も、おさらいの意味で、目を通しておいてはいかがでしょうか。

世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略 (集英社新書)
世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略 (集英社新書)

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