前巻で、人柄穏やかに見えて、藤原北家の一族らしく、良房・基経親子の隙をついて、娘の多美子の入内の約束を取り付け、勢力拡大を一歩進めた藤原良相。
ただ、息をするように謀略を企む平安貴族の典型である良房・基経親子が黙っているわけもなく、今巻では、多美子の入内を巡って、平安時代らしい、呪詛やら毒殺やらの陰湿な妨害とそれを阻止する道真の活躍が描かれる。
【構成と注目ポイント】
構成は
第三十四話 藤原多美子、入内の事 一
第三十五話 藤原多美子、入内の事 二
第三十六話 藤原多美子、入内の事 三
第三十七話 藤原多美子、入内の事 四
第三十八話 藤原多美子、入内の事 五
第三十九話 藤原多美子、入内の事 六
となっていて、まずは、良相が良房を出し抜いたことを喜ぶ伴善雄の大笑いからスタート。もちろん、彼は打倒・藤原派であるので、心から喜んでいるわけではなく、藤原北家内の内部争いに喜んでいいるに過ぎないのが食えないところ。
まあ、業平の想い人・藤原高子と多美子の仲が姉妹のように仲がいいのが救いではある。
これが表面(うわべ)だけのことであったら、ちょっと怖い展開になるのだが今のところはそういう気配もなく、多美子の部屋の床の下から怪しい音がする、という話を聞いた高子が、探索を道真に頼むところから、本巻の謎解きがスタート。
道真自らが乗り込むことができるはずもなく、こういう「女性向け」の探索行は、いつものように「白梅」の任務となる。そして、この漢学娘が床下に潜って見つけるのが
といった「平安」らしい呪詛のシンボル。こうした白梅のガチャガチャした動きが、多美子暗殺のために潜り込んでいる基経のスパイをあぶり出すことにつながるので、この娘はそれなりに良い働きをしております。
もうひとり良い働きをするのが、いつも能天気に暮らしている紀長谷雄で、昭姫のところで店で暴れようとする、良房に弓を射掛けた犯人でもある「紀豊城」を撃退したり
牛車を襲う豊城の目を誤魔化したり、道真たちにまんまとのせられてのことなのだが、多美子が宮中に入るアシストを無事務めることとなる。
そして、業平と藤原高子に頼まれて、道真が知恵を絞った今回の仕掛けは、多美子が住んでいる家から、入内を勅使を迎える父親・良相の家まで、無事に移動させる方策なのだが、昼間を避けてあえて「夜」の移動を考案するのだが、その仕掛けのほどは原書で確認してくださいな。
【レビュアーから一言】
今回の騒動で、藤原常平が、在原業平と道真がつるんでいるのでは、ということに気づき始める。常平は、基経ほどの権力亡者ではないようだが、やはり藤原一族らしく、藤原ファーストの思想の持ち主であるのは間違いなくて、これがこの後の展開にどう関係してくるかは予断を許しませんな。
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