日本の海を明るく照らせ。灯台はじめて物語 ー 土橋章宏「ライツ・オン!」(筑摩書房)

「日本はじめて物語」というのは、明治時代の文明開化の頃を舞台にした物語のおなじみネタなのだが、どうしても「鉄道」といった派手なものが注目されることが多くて、「灯台」をテーマにしたものは本書ぐらいのものだろう。その意味で、こうしたマイナーなものに目をつけて物語に仕立て上げた筆者の目の付け所はさすがであろう。

物語の舞台となるのは明治の初期。当時の灯台の多くは、光の到達距離の短い灯明台や常夜灯の設置がされていたのみで、日本の近海は暗礁も多く、「ダーク・シー」と呼ばれて恐れられていたようだ。
この状態は基本的には、高度経済成長の頃まで続き、結構長く続くのだが、本書は近代海洋国家・日本の黎明期で奮闘したお雇い外国人と日本人との挑戦の物語である。

【あらすじと注目ポイント】

物語は、「丈太郎」という英国人と日本人の間に生まれた「緑の目」を持つ少年が、雇い主のお雇い外国人技師・リチャードともに長崎港へ入る所からスタート。

このリチャードと言う男、イギリスでも結構、腕のいい技師だったんだが、残念ながら労働者階級に属していたためか、勤務していた建築事務所では芽が出ずに、はるばる日本まで事務所を起こす資金を稼ぎにやってきたというわけ。
一方、丈太郎はイギリス海軍を脱走した父親と日本の女性の間に生まれた男の子で、その緑の女と外国人のような風貌で今まで差別されて育ってきている。彼は父親から英語を教わっていて通訳として働いているのだが、日本を離れて英国へ行けば差別なく活躍できるのかと思っている。

この2人の男を中心に日本の灯台建設物語が始まるのであるが、ここに、当時の日本が誇る科学者兼技術者といっていい、「からくり儀衛門」こと田中久重が佐賀藩公の希望で、リチャードの仕事や技術を学びにやってくるあたりから、物語が大きく膨らみ始める。最初は、日本の技術者のレベルを馬鹿にしていたリチャードなのだが、灯台の設計書を見て、その勘所を理解したり、屈折レンズの模式図を見て、光の性質が波長であることに気づいたことに驚くのだが

リチャードは気付いた。久重の中で今、思考のジャン奥とでもいうべきものが起こったのだろう。ある理論を理解する際に、地道に理論を積み上げていくのではなく、いきなり正解にたどりついてしまう。そこに筋道はなく、正解があるだけだ。優れた科学者はこのようなひらめきの力をもっているという(P114)

といった感じで、田中久重に対しして、一流の技術者・科学者としての敬意を抱くあたりから、英日協同の「灯台建設」が始まるあたりは、さながら「明治版・プロジェクトX」(ちょっと古いか)的な色合いがしてきて、ちょっと感動的である。

灯台建設物語と並行してもうひとつ進んでいく物語は、通訳の丈太郎とリチャードの娘・ヘンリエッタ、そして地元の漁師の子ども・ニキチとカヨの交流を通じて、外国人技術者たちと村人たちが心を通わせていく、というもの。
カヨが村の男の子たちにいじめられているのを、ヘンリエッタが救出するといった、けっこうベタな感じで始まっていき、日本人を見下していたリチャードも、ヘンリエッタの結石を日本の漢方医が治療したことで「日本」を見直していくのだが、こうした定番的な展開も安心して読めるので悪くはない。

注目すべきは、この日本初物語がお雇い外国人の目から語れると言うことで、日本の役人が頑迷であることや外国人の手柄を横取りしようとする、さらには外国人が提案することごとくを退けようとする様子など普通なら日本人の目から語られる事大違いの要素に少々驚くのである。

【レビュアーから一言】

舞台となるのは長崎港の外にある伊王島で、今は長崎市になっている。カトリック教徒の方の多いところであったらしく、歴史のある教会が多いようでありますね。灯台が建設される場所であるので、海を望む景色は素晴らしいのは間違いなし。この物語の主人公の一人、リチャード・ブライトンが手掛けた「伊王島灯台」も改築はされているが残っているようですね。

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