「雑談できる環境」はこうすればつくれる ー 沢渡あまね「話し下手のための雑談力」

雑談」というと、一昔前は「仕事のムダ」ととらえる人が多くて、日陰者的な存在だったのだが、最近は人間関係の円滑化がビジネスの業績アップにも好影響を与えることがわかってきたり、といったこともあって、「雑談」に注目が集まってきている。

こうした中、自らの「雑談」力を上げるテクニックについてアドバイスしてくれるビジネス本は多いのだが、意外に見落とされるのは、雑談力の高い社員がいくら多くいても、「雑談ができる環境」がないと宝の持ち腐れになってしまうということ。

本書は、「雑談の力の磨き方」というよりも、「雑談が活発化する職場環境づくり」に焦点をあてていて、その意味で、職場の管理者層やチームリーダー層が待っていたビジネス本といえる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 そもそも雑談とは何か
第2章 雑談がうまれやすい職場とは?
第3章 雑談を仕掛ける工夫、あれこれ
第4章 雑談が生まれやすい環境づくり、あれころ
第5章 雑談の仕掛け事例、集めてみた

となっていて、まず、本書で「雑談」の効果としてあげているのが
①心理的安全性が担保される
②ホンネが言いやすくなる
③生産性が上がる
④問題解決のスピードが上がる
⑤ハラスメントを予防できる
といった職場リーダーの「職場環境」に関する共通の悩みに対する処方箋となるようだ。さらに「 知識の蓄積、ナレッジマネジメントというと、どうもノウハウや業務知識を文書化することばかりに目が向きがち。」といった日本企業が「企業内の知恵の伝達」で陥りがちなところを指摘して、その解決策に「雑談」が効くといったところなど、まさに「雑談が企業を救う」といった雰囲気である。

ただ、ここで注意しておかないといけないのは、社員の自主性に任せておけば、雑談が活発になるかというとそうでもなくて、

雑談は仕掛け8割、スキル2割といっても過言ではありません。個人(管理職自身、個々のメンバー)のスキルやメンタリティに依存しなくても、自然と雑談が交わされる。必要なときに結束できるようにする。それこそが、マネジメント

とし、

ポイントは2つ。ずばり、「ちょっとした投げかけ」と「仕掛け」

としているところを見ると、やはり「雑談環境」というのも、筆者の今までの「問題地図」シリーズでも共通るように、従業員任せでなく、リーダーがまず旗を振って、仕掛けていくことが必要であるようだ。
そのためか、オフィスや職場の仕掛けとして、「オフィスにコーヒーマシンを置いてみる」「コピー機の置き場所を変えてみる」「フリーアドレスにしてみる」といったハード面の提案から、「事例発表会をする」「読書会をする」「 社内SNSやSlackを導入する」といったソフト面での提案と導入ポイントがアドバイスされているので、ぞれぞれの会社の環境に応じて、導入策を考えてみるとよいでしょうね。

さらに、リーダーシップは、管理職だけに必要なものではない、という最近の有力なリーダー論を踏まえてか、 会社任せ、リーダー任せを推奨しているのではなく、 社員ぞれぞれが、より良い「雑談環境」をつく提案も入っていて、個人個人でやれることも、数多く提案されているので、管理職やリーダーの方も御安心ください。

もちろん、環境づくりは一朝一夕には出来上がらないし、職場や社員の状況もそれぞれに異なっている。

組織は生き物です。組織のメンバーも生き物です。未来永劫、必ず100点を取れる完璧な答えなどないのです。  
(略)
職場コミュニケーションの活性のやり方に王道はありません。ただひとつ言えるならば、「手を変え」「品を変え」そして「景色を変え」(ること)

が大事ということを、頭において、あせらずに取り組んでいくことが肝心なようですね。

【レビュアーからひと言】

ここに至っても、「雑談」の効果に今一つ首を傾げている向きには

私たちオフィスワーカーは長らく9時〜 17 時固定席にかじりついて仕事をするスタイルに、会議室に集まって打ち合わせをするスタイルに縛られてきました。  しかし、個人の思考や仕事の種類によって、生産性が高い仕事のやり方は異なります。

としたうえで、「生産性とは、個人がそれぞれの仕事のやり方の「勝ちパターン」を認識し、それをいかに実践できるかにかかっているといっても過言ではありません。」と念押しがされていますね。まあ、ビジネスチャンスを広げていきたいなら、ここらで観念して、すばらしい「雑談環境」づくりに取り掛かったほうが良いと思います。

話し下手のための雑談力
話し下手のための雑談力

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