「整理法」も最新テクノロジーで進化する ー 野口悠紀雄「「超」AI整理法 無限にためて瞬時に引き出す」

「整理法」のレジェンドといえば、筆者の野口悠紀雄氏の顔が真っ先に浮かぶほど、氏の発想した「押し出しファイリング」は、山根一馬氏の「山根式袋ファイル」と並んで、まだPC環境が未成熟な時代にあって、紙書類を中心とした情報の整理に一大革命をもたらしたものであった。

大抵の場合、こうしたレジェンドは、一つの優れたシステムを生み出すとそれが優れていればいるほど時代の波の蚕食を大きく受けてしまうものなのだが、この筆者の場合は、時代の欲求やテクノロジーに合わせて、その整理術も進化をさせているところが、この人の偉いところである。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 新しい情報洪水の到来
第2章 情報大洪水時代に必要な「超」整理法の思想
第3章 AI時代の「超」メモ帳
第4章 志向を整理する「超」AI文章法
第5章 AIの眼を持つ百科事典の実力は?
第6章 AIを駆使するアイディア製造と独学
第7章 インターネットと現実世界の新しいつながり
第8章 AIで事務作業を効率化
第9章 AIはいかなる未来を作るか?

となっていて、今回は、AIなどのテクノロジーが怒涛のように変わり、それに合わせて情報整理の環境や思考も大きく変わらなければならないところに焦点が合わさっている。

それは例えば

デジタル時代には、「分類するな。検索せよ」が新しいモットーになりました。検索のノウハウが重要になったのです。 デジタル情報について重要なことは、「いらないものを捨てる」という努力をやめて、「必要なものを検索する」という方針に転換することです。

というあたりにも現れていて、音声認識や画像認識などを使って、個人レベルでも「情報」が大量に生産されるよぅになった環境に根差しているのだが、「 問題なのは、「いらない情報は捨てなければならない」という考え」といったあたりを読むと、情報整理についての考え方を根本から変えないといけないようですね。

そして、これはクラウドやAIを前提とした最先端テクノロジーの利用を前提としている。これについてはプライベート情報の収集といったことから意見も分かれるところなのだが筆者の見解は

自分で管理しようとしても、攻撃などに対しては、そのほうが危険です。現代の世界で、Gメールやグーグルフォトのようなサービスに依存せずに生活したり個人が仕事を進めるのは、きわめて難しくなっている

と明快で、以後の章では、グーグルレンズの使い方や、音声入力による「メモ術」といったテクニカルなところもしっかり紹介されているので、ここらはデジタルへのスタンスで好みがわかれるところではあります。で、このスタンスに立つと、ことは情報整理だけに限られることなく、「 メモはきわめて重要です。メモをうまく取り、それを適切に活用することができれば、私たちの生活の質や仕事の効率は大きく向上します。 メモは、あらゆる知的活動の基礎です。」と筆者が重要視する「メモ」をいつとるか、といった情報の創造、知的生産の場面にも及んでいて

多くの人は、「メモを取る価値が間違いなくある」と判断するものだけについて、メモを取ります。しかし、実は、それほど価値があるとは思っていなかったことでも、後で重要になることがしばしばあります。したがって、「メモすべきかどうか」などと思い悩まず、何でもメモするほうがよいのです。 「考えがまとまってから入力しよう」と考える必要もありません。

と、知的生産そのものを日常生活の中に溶け込ませる動きでもある。そして

『「超」整理法』を書いたときといまを比べて、大きく変わったことがあります。それは、スマートフォンで写真を撮り、それを保存することが著しく簡単になったことです

とテキスト系の情報だけでなく、映像系の情報とその活用方法についても紹介されているあたりが、きわめて現代的な、新しい「整理法」のノウハウ本の登場であります。

【レビュアーからひと言】

デジタル・デバイスやクラウド系の各種サービスを積極的な活用を前提としているような本書のスタンスには、読者のほうに「思い」もいろいろあるだろうが、「デジタル・パイオニア」であるミレニアム世代から「デジタル・ネイティブ」であるZ世代に消費や生産活動の主体が移っていきつつある現時点、それ以前の「アナログ世代」も好きかどうかに関わらず、ついていかないと不遇な目に逢いそうな気がしているところであります。

「超」AI整理法 無限にためて瞬時に引き出す
「超」AI整理法 無限にためて瞬時に引き出す

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