地域振興の陰には、地元民の悲哀も隠れています ー 八木圭一「北海道オーロラの事件簿 町おこし探偵の奮闘」

北海道の十勝というと、荒川弘さんの「銀の匙」や「百姓貴族」シリーズや、広瀬すず主演の朝ドラ「なつぞら」の舞台ともなっていて、当方のような海と山の間の狭い平野にへばりついて暮らしている、西日本の山陰地方在住者としては、その広大さだけで「憧れの地」になってしまう。

そんな「北海道十勝」の架空の町「陸幌町」(通称「オーロラ町」)を舞台にした、地域色豊かなミステリーが本書『八木圭一「北海道オーロラの事件簿 町おこし探偵の奮闘」(宝島社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 灯油盗難事件/宮脇大祐
第二話 募金詐欺事件/宮脇里奈
第三話 猟銃威嚇射撃事件/安藤亮
第四話 ゆるキャラの中の人殺人事件/宮脇大祐

となっていて、架空の町とはいいながら、「陸」「幌」といった単語と、十勝の北の外れという設定となっているところを見ると、「陸別町」と「浦幌町」あたりがイメージされているように推察されるところ。で、物語は、この町出身で、今は札幌の自動車会社に努めている主人公・宮脇大祐が、父親が心筋梗塞を発病したため、実家のガソリンスタンドの手伝いに一時帰郷しているところからスタート。

まず第一話の「灯油盗難事件」は、オーロラ町にあるシェアハウス「オーロラ・テラス」の灯油タンクの灯油が三日で百リットルも減ってしまう出来事から始まる。このシェアハウスには、都会からやってきたユーチューバーが住んでいて、彼らが灯油を抜いたのでは、と主人公の大祐は疑いをかける。ところが、逆に大祐が実は灯油を満タンにしなかったのでは、とい噂が流れ始めて・・、という展開。犯人は突然に判明するのだが、注目したいのは、大祐にかけられた濡れ衣の噂を広めたのが誰か、というところで、地方から都会へ出ていった者への嫉妬という「地域振興」がまず突き当る課題がでてきていますね。

第二話の「募金詐欺事件」は、災害への寄付金を募っている、と町の老人のところからお金をだまし取っている詐欺犯の行方を、大祐が推理する話。年齢の離れた恋人と一緒になって地元を出ていくであろう予感のある大祐の妹と、大都会・札幌と田舎の地元との間で悩む大祐の姿に、地方の田舎に生まれ育ってしまった若者の悩みが現れていますね。

第三話の「猟銃威嚇射撃事件」では、フランス帰りでオーロラ町で、シェアハウスや都会の住民からも人気のあるフレンチ・レストランのシェフ兼経営者兼地域おこし会社運営者・安藤に大祐が見込まれていきます。ところが、その安藤と大祐が鹿の狩猟にでかけたところで、何者かにそげ見されるという事件がおきて・・・、という展開。第一話と同じく、都会で成功し地元へ帰ってきた人間と地元の人間との軋轢が根底にあるのが哀しいところですね。

最終話の「ゆるキャラの中の人殺人事件」では、地域おこし協力隊をしている男・太田が車の中で着ぐるみを着たまま、一酸化炭素中毒で死亡する事件が発端。
彼は離婚歴があって、子供と会うことが禁止されたため、過去をすてるため、この町へやってきた、という設定。札幌から引き上げ、正式のフレンチ・レストラン兼地域おこし会社経営者・安藤の手伝いをすることになった、大祐が犯人探しに乗り出すといった筋立て。
事件のほうは、車の排気筒を雪で塞いでガスを車内に充満させる方法なのだが、太田と同じように都会からこの町へIターンしてきた母娘の娘のほうがストーカー被害にあっていて、それと太田とが関係ありそうな気配であったり、母親のほうに大祐の友人がぞっこんになってういたり、と人間関係が複雑に絡んで展開していきますね。

【レビュアーから一言】

全体の味わいは、アマゾンのレビューでも賛否が別れているように、ミステリー風味の「地域おこし」物語、という感じ。登場人物も大祐や安藤のほかに、母親がガンになったため帰郷してきた「中野」という大祐の友人や、大祐が灯油をごまかしたという噂を流した犯人が地元の若者で、スポーツカーを乗り回す大祐に嫉妬していたり、と過疎地に住み続ける者や心ならずも故郷へ帰ってきた者の複雑な思いがあちこちに感じられるつくりになってます。
そして、最後の話の犯人が「都会の悪女」というのもまた皮肉なところであります。

北海道オーロラ町の事件簿 町おこし探偵の奮闘 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
北海道オーロラ町の事件簿 町おこし探偵の奮闘 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

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