大坂町火消をまとめ上げて、火災旋風に立ち向かえ ー 今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」

第四巻の「鬼煙管」で、初代長谷川平蔵を六角獄舎の火災で失って後、江戸が物語の中心となっていて「上方」とはご無沙汰となっていた。
今回、その時に知り合いとなった、淀藩常火消の「蟒蛇」こと野条弾馬の要請と、幕府と朝廷との「暦編纂」の争奪争いが絡み、「大坂」で羽州ぼろ鳶組が活躍する姿が描かれるのが「ぼろ鳶組」シリーズ第9弾となる『今村翔吾「双風神(ふたつふうじん) 羽州ぼろ鳶組 9」(祥伝社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 緋鼬
第二章 水の都
第三章 天理人足
第四章 秘策
第五章 大坂
第六章 赤舵星十郎

となっていて、まずは、ぼろ鳶が誇る「風読み」加持星十郎が、幕府の天文方が京都の土御門家から「暦の編纂」の権利を取り戻すための勝負に、幕府方として参加するため、休暇がほしいと申し出るところからスタート。この時、羽州ぼろ鳶組の頭取・松永源吾のもとには、淀藩常火消の野条弾馬から、大坂で頻発する、複数の小火から緋鼬へと広がっていく火事の対応の援助を求められており、ふ星十郎+源吾+武蔵の三人組で、暦争いと緋鼬退治に大阪へ出かけていく、という展開である。

「緋鼬」というのは、調べてはみたが検索にヒットしない。おそらくは「個別に発生した火災が酸素を消費し、火災の発生していないい周囲からの空気を取り込むことによって、局地な上昇気流が生じる。これによって、燃焼している中心部分から熱せられて空気が上層へ吐き出され、それが炎をともなった旋風になる」という「火災旋風」のことらしく、関東大震災や東京大空襲などの時にも起きた現象ですね。

で、この火事が起きるのは自然の摂理というわけでは当然なく、六角獄舎の火災の時に脱獄した「首刈り狂四郎」たちによる放火が原因。ただ、この「緋鼬」は風の向きを絶妙に読まないと起きないもので、この連続放火の陰にいる黒幕が、星十郎の仇敵・土御門泰邦、という設定である。

「土御門」や六角獄舎の脱獄囚がでてきたところで、相手がとんでもない悪賢い強敵ということがわかるのだが、立ち向かおうにも、大坂の町火消は組同士が互いにいがみ合っていて一つにまとまらない。さて、弾馬と源吾はどうやって大坂町火消を一つにまとまるのか、そして「緋鼬」を潰す秘策は・・・という展開である。

まあ、この大坂町火消をまとめるのは、源吾の捨て身というか「やけっぱち」の説得。ニセの火事騒ぎを起こして、大坂町火消の5つの組をすべての組の管轄の境である「西横堀」に集める。そして、集まったところで、源吾は「黙れ、大坂の糞火消しども」と吼えて・・、といったところで、この度胸と気風の良さは、原書で確認していただかないと迫力が伝わりませんね。

そして、緋鼬を潰す秘策は、京都の大半を焼き払った付け火の犯人で六角獄舎にいる、「さとり」のように人の心を見透かし、精神を蝕む呪詛を使うという、野狂惟兼という人物で、どういうわけかっ星十郎を気に入って、策を授けてくれますね。
さらには、第四巻で出てきた火付け道具「魃(ひでりがみ)」が、火付け道具ではなく、山火事の火消し道具であったことが判明する。

さて、源吾+弾馬+大坂町火消の五組、野狂惟兼の秘策、魃(ひでりがみ)、三種揃って、「緋鼬」に立ち向かっていく・・・、といったところでここから先は原書で。

【レビュアーから一言】

いつもは田沼意次から政権を奪取するために、羽州ぼろ鳶組を目の敵にして、付け火などを仕掛けてくる一橋卿なのだが、どういうわけか、今巻では静観の構えである。それは土御門泰邦が本当の狙いとしていることと一橋の狙いがかぶっているためらしく、前巻で放火殺人の犠牲となった「橘屋の日記」に秘密が隠されている。どうやら、国家的な陰謀の臭いがしてくるのだが、といったところで次巻以降に続いていきます。

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