未来食堂のユニークなサービスの根底にあるものは? ー 小林せかい「ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由」

ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由

未来食堂というのは東京都神保町にカウンター12席だけの小さな定食屋で、この店では日替わり一種類しか名ニューがない、というユニークな店である。

しかもその日替わりが毎日変わる上に基本的には同じものは二度と作らないという、ある種のこだわりのある店であるとともに、表題にあるような、壁に貼ってある券をお客が剥がしてもってくると無料で一食食べさせてくれる「ただめし」といった、とてもユニークなサービスまでやっている、かなりエッジの立った店でもある。

さらには事業計画や決算をオープンにしていて、仕組みは二次利用可という大盤振る舞いの見せながら「黒字」を維持しているという優良飲食店でもある。

本書は、そんなユニークな店の「仕組み」や「運営」の秘訣を、経営者自らが、かなりあけっぴろげに明らかにした「ビジネス本」である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 未来食堂ってどんな店?
第2章 懐かしくてあたらしい、未来食堂のシステム
 1 まかないー50分の手伝いで1食無料
 2 ただめしー壁にはられた1食券を剥がしてみってくれば無料
 3 あつらえーあなたの好みに合わせておかずをオーダーメイド
 4 さしいれー飲み物の持ち込み自由。ただし半分はお店に差し入れ
 5 未来食堂らしさとは
第3章 見たことがないものを生み出す力
第4章 未来食堂のあれこれ

となっていて、この店の「仕組み」そのものがユニークであるのは
間違いないのだが、まず注目すべきは、その「オープン」なところ。

ここは、未来食堂の経営者で筆者の「小林せかい」氏が、IT技術者出身であることと密接に関連しているらしく、本書によれば

”看板メニュー”という名の下にレシピを隠す飲食店や、”セミナー”という名の下に知識を隠蔽する飲食店開業コンサルタント。
「自分の知識を隠すことで勝者となる」ことが既存のビジネスのあり方だとして、私はもっと別の未来があると思うのです。
それが、オープンソースによる「知識のシェア」です。

というところで、ここらは、閉鎖的な印象の強い「飲食業」だけでなく、囲い込みをしがちな福祉業界などなど、多くの業界で、未来食堂の試みは参考になるのでは、と思った次第である。
それは、「まかない」という、一度以上、お客として来店した人が、50分間、店の手伝いをすることで”1食”、無料で食べられるというシステムの場合も、この仕組を「クラウドリソース」(タスクを細分化して1人1人が負担なく働くことで、全体として大きなタスクをこなす作業スタイル)として、飲食業界の参加の負荷を下げて、多くの労力を集める仕組みとして考えているあたりが、只者ではない。

このへんは、この店の「ただめし」や「あつらえ」といった他のサービスも同様で、単なる「一食無料サービス」や「特別注文メニュー」ではなく、仕組みもユニークなら、その中に流れる考え方も「ほう」と唸らせる筋が一本ぴしっと通っているので、そこらは原書か、お店に行って確認してください。

さらに、普通の成功本であるなら、こうした店の仕組みやサービスを生み出してエライでしょ、といったところで終わるのだが、本書は、そんなしくみを生み出した「仕掛け」、つまりは、未来食堂流の思いついたアイデアを形にするための流れもあわせてアドバイスされているところで、ここらにも「オープンソース」の思想が徹底しているようですね。

ちなみ、その流れはざっくりいうと

①「息苦しさ」を見つめ続ける
   or
  情景をものすごく細かく想像する
②「一枚の絵」がひらめく
③現実に落としこむ(定石編)
  立地と大きさを考える
④現実に落としこむ(独自編)
 ・やる方向で考える
 ・あるもので無理なく

といったことであるようだが、詳細は原書で読んでくださいな。

【レビュアーから一言】

「未来食堂」というと、マスコミにかなり取り上げられたせいもあって、とかくユニークなサービスのほうに目が行きがちなのだが、着目しておかないといけないのは、筆者のこうした店の運営の仕組みやサービスの仕組みの根底にある「考え方」「思考性」のところなんでしょうね。
最後のほうで

未来食堂、その理念「誰もが行け入れられ、誰もがふさわしい場所」が伝播されることが本質です。それは必ずしも飲食店として伝わっていくことを意味しません。どんな業態であってもいいのです。

というように、この理念は業種を選ばないことは間違いなく、未来食堂の「方法論」も業種を選ばないことも間違いない。起業家もビジネスマンもそれぞれのところで、応用してみてはいかがでありましょうか。

ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由
ただめしを食べさせる食堂が今日も黒字の理由

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