ディストピアものの小説やコミックは、終末ヘ向かう戦争や異生物との闘争を描くものと、終末が訪れた後に残された者の物語を紡ぐものとに大別できるのだが、本書は後者の種類に属している。
その中で、本書を特徴づけているのは、廃墟となった都市群の中を、女の子二人が、「ケッテンクラート」という軌道車に乗って延々と旅をしていく、という設定である。
「ケッテンクラート」というのは、もともとは1939年に、ドイツの自動車メーカーによって開発された、前輪が車輪で、後輪がキャタピラになっているハーフ・トラックで、泥濘の多いポーランドやハンガリーといった東ヨーロッパ戦線で使われたものであるらしい。本書では、文明崩壊後、古い文献をもとに復元された、という設定になっているようですね(第一巻の最後に「図解」がありますね)。
【構成と注目ポイント】
構成は
01 星空
02 戦争
03 風呂
04 日記
05 洗濯
06 遭遇
07 都市
08 街灯
となっていて、まずは「ミナ」と「ユーリ」という二人の少女が大きなビルの中を、復元ケッテンクラートで外への出口を探して走行しているところからスタート。
雪が降っているところを見ると、北方地域であると思われるのだが、終末が核戦争によるものであるなら、核の冬が長く続くはずだから断言はできませんな。
で、この都市群を二人で旅していくのだが、携行食糧を見つけた時の
といったあたりに、人間が戦争を起こす「原点」のようなものか垣間見せたり、
と「記録」「記憶」が人間としたあるために重要であることを教えてくれたり、とシュールながらも「哲学的」な仕上がりの漫画となっている。
ただ、食欲旺盛で肉体派の人物にとっては
といったふうに「記憶」は余計なものであるようですね。もっとも、「余計」というのは、「忘れたい」と同義かもしれんですが・・・。
本巻の最後の方では、カナザワという、地図をつくっている男と出会います。遺跡として残っているビルのエレベーターに乗っているところで、地図を落としてしまい落胆する彼に対し、
というユーリの言葉が、これまた哲学的でありますね。
【レビュアーから一言】
終末マンガというと、グロかったり、スプラッター系でちょっとなーというものもあるのだが、このシリーズは、すでに終末を迎えててから次巻が経過した後の世界を描いているせいか、妙に「静か」な印象が強い仕上がりですね。小説でいうと、筒井康隆さんの「幻想の未来」の最後のあたりの、海と陸が融合していく中を、二人の少女が旅して行っているような感じであります。
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