エウリュディケに暗殺の危機。エウメネスは阻止できるか? ー 岩明均「ヒストリエ 11」

前巻で、「カイロネイアの戦い」でアテネ・テーベ連合軍を降し、ギリシア世界の覇者としての地位を固めた、フィリッポス王から、「王の左手」候補者に選ばれたのだが、想い人のエウリュディケが第七王妃として王宮入りすることとなるなど、身辺に、自分の望まない大きな変化が起きて、面白くないことの続くエウメネスであるのだが、そうした彼の思いに構うことなく、マケドニア王国は劇的事件に向けて進んでいく。

まだそれは萌芽状態であるのだが、不穏な気配はどんどん色濃くなってきて、嵐の前の〇〇といった感じなのが本巻『岩明均「ヒストリエ 11」(アフタヌーンKC)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第88話 心の座・1
第89話 心の座・2
第90話 心の座・3
第91話 心の座・4
第92話 心の座・5
第93話 心の座・6
第94話 引っ越し祝・1
第95話 引っ越し祝・2
第96話 オリュンピアス処分・1
第97話 オリュンピアス処分・2

となっていて、第88話から第93話は、後にフィリッポス王を暗殺することとなる「パウサニアス」の幼い頃の回想から現在に至るまでが描かれる。彼の黒幕となるのが誰なのかは未だに定説がないらしい。

このパウサニアスは、もともとマケドニアの近くにあった「オレスティス」の有力貴族の息子であったのだが、イリュリアとマケドニアの戦争で、味方していたイリュリアが破れたため生家が没落し、その後、オレスティの他の貴族のつてでフィリッポス王の護衛になったという設定ですね。要望がアレキサンドロスに似ていることから、実の兄から、それを利用してマケドニアをのっとれ、と幼い頃から教え込まれているのだが、むしろ、フィリッポス王を暗殺した根底には

といった、祖国の敗北とその後の人生が生んだ「虚無」といったところにあるのかもしれません。もっとも、「痴情のもつれが原因」という説もある(一番有力な説かも)ようなので、そこはそれぞれで推理してください。

第94話と第95話は、フィリッポス王の後宮に入ることになったエウリュディケに対して、王妃オリュンピアスが自分のお付きの女官を使って罠を仕掛けてくる話。原因は、今まで、多民族出身の娘しか王妃にしていなかったのだが、今になってマケドニア貴族の娘を王妃にした理由を探ろうとしてのことなのだが、こうした陰謀好きで人を殺めることをなんとも思っていない女性に早速目をつけられるとは、エウリュディケもあまり運がいいとはいえませんね。
で、王妃オリュンピアスのお付きの女官・ニカンドラがしかけた罠というのが、干し肉を使った毒殺。
これには毒味役が毒味しても彼女は毒にあたらず、標的の主人が食べると・・・という仕掛けがあるのだが、詳しいところは原書で。

第96話と第97話は、こうしたエウリュディケへの罠がばれて、オリュンピアスが故郷のモロッシアへ静養という名の追放となります。もちろん、こうした「エライ」人の「追放」というのは、庶民が江戸所払いになるのとは違って

といった風に、追放先へ行く途中で「処分」が待っているのだが、一癖も二癖もある「オリュンピアス」のことなので、無策で処分されるのを待っているわけもなく、といった展開。ここでフィリッポス王の誤算は彼女とパウサニアスが出会ってしまったところですかね。

【レビュアーから一言】

才能と力に溢れた王がでてきて、国を頂点に押し上げていくときには、それと合わせるように、権力を自分の手に握りたい、超上昇志向の女性がでてくることが多いのだが、フィリッポス王の王妃オリュンピアスは、その典型といっていい。
しかも、旦那の暗殺の黒幕では、という噂だけではなく、これから孫の時代に至るまで、王国で権勢をふるったり、追放されたりといったことを続けるのだから、凄い女性がいたもんですね。

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ギリシアあたりを旅すると、「ヒストリエ」の世界に浸れるかもしれません。

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