高天神城に籠城する「恩人」を救え ー 岩明均・室井大賀「レイリ 4~5」

第1巻から第3巻までで、武田家滅亡のきっかけとなった「長篠の戦」で父母・弟が織田勢に」殺された後、彼らの後を追うために、剣の腕を磨き、武田信玄の孫で将来の武田の当主となる「武田信勝」の影武者として新しいスタートを切った「レイリ」。

彼女が次に直面するのは、武田家の滅亡への歩みをさらに後押しした「高天神城」での織田勢との攻防戦である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第4巻
第16話 二つの城
第17話 高天神城へ
第18話 攻囲軍司令・徳川家康
第19話 邂逅
第20話 献策
第21話 犬戻り猿戻り①

第5巻
第22話 犬戻り猿戻り②
第23話 松明
第24話 退却戦
第25話 再び甲府にて
第26話 城、ただ一つ
第27話 織田を割る
第28話 新府
第29話 声変わり

となっていて、この高天神城は、信勝の父・武田勝頼がその武名をとどろかせた城であるにもかかわらず、信勝の提言により「救援しない」との方針を固めることとなる。ここらの信勝の推理は、思いのある高天神城が危機になると、勝頼は感情が先走って、高天神色城の近くまでやってくるだろうから、そこで彼を打ち果たそうというのが信長の企みだ、というもので、結果論的には間違いないとしても、高天神城の主将が、恩義ある「岡部丹波守」であるので、レイリとしては、心情的に納得できない状況となる。しかも、救援軍を送らないということを、高天神城には知らせてなかった、ということで、レイリが暴発して、単身、高天神城に向かうという展開。

まあ、レイリ一人救援に行ってどうこうなるものではない、というのは常識で、まあ、岡部丹波守に殉ずるために向かった、といったところですね。

高天神城攻防戦の読みどころは、レイリが城を包囲する徳川勢の間を潜って、高天神城に潜り込むところで、途中、徳川家康の暗殺を企んだり、

忍まがいの技をみせたり、城から味方を逃がすため、一人で、徳川の軍勢と戦ったり、というところ。
この高天神城のあるところが

のような要害に囲まれたところであるので、攻めるのも難儀であれば、包囲されたときの守備側の苦難もあるというところで、この城をめぐっての攻防戦の激しさが想像されますね。
さらに、織田勢に、城兵や城将の大多数の討ち死にを覚悟したうえでの捨て身の攻撃をしかけるところで、岡部丹波守から

といった言葉をかけられて、感極まっている様子が、とても感動的でありますね。

物語のほうは史実に従って、高天神城が落城し、武田家は織田信長によってじわじわと追い詰められていきます。ここで「将」としての器量の差が出てきていて、今までの武田家の拠点であった府中から「新府」へと急遽拠点を移す勝頼と、

織田に攻め込ませておいて、小山田信茂の居城に籠城し、織田家が割れるのを画策する、という信勝では、「策」の性質が全く違いますね。

これに加えて、織田家を割るために、こんな仕掛けを仕込むのだが、詳細は原書で

ただまあ、この信勝の策が本当にあったかどうかは、読者の判断にお任せするとともに、歴史を後世から見ている者であれば、この後の本能寺とかも知っているので信勝に軍配をあげたくなるのだが、当時の現場にいると信勝の案は、奇想天外すぎて危なっかしくて仕方ないと思うのも無理はないところか。

五巻の最後のほうで、信勝も成長し、変声期を迎えます。当然、女性で声変わりしない「レイリ」は影武者としてはお払い箱になるのだが、彼女の武芸は捨てがたい、という信勝の判断は妥当でしょうね。そして、その判断のおかげで、レイリは「武田家の最期」の場面に立ち会えることになるのだが、そこのところは最終巻の6巻で。

【レビュアーからひと言】

この高天神城は、織田・徳川勢と武田勢が激しく争い、その領有権も動いた激戦の地であるので、いろんな説がありますね。
例えば、第一次高天神城の戦のとき、徳川の支配下であったときに、武田信玄が攻めても落とせなかった城を勝頼が攻め落とすことに成功したため、彼の増上慢につながった、といった話や、第二次高天神城の戦の際は城側の降伏の願いをわざと受け取らず、救援軍を送らない勝頼の評判を下げ、武田家を割ろうとした、などなど。ちなみに、「信長のシェフ」のほうでは、高天神城の攻撃に乗り出そうとする織田軍を、主人公の「ケン」が押しとどめた、ってな展開になってましたね。

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