戦国の雄・武田家崩れる。信勝・レイリの運命はいかに ー 岩明均・室井大賀「レイリ 6」

高天神城を陥落させた後、いよいよ武田家の殲滅を狙って、織田勢が甲斐国へ攻めかかってくる。その攻撃を受け、戦国一の強兵といわれ、盤石と思われていた武田宗家ががらり、と崩れ落ちていくのが、レイリの最終巻の第6巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第6巻
第30話 銃声
第31話 希望
第32話 声、響く
第33話 信玄からの手紙
第34話 戦ーいくさー
第35話 富士

となっていて、まずは、武田家を支えてきた木曽義昌、穴山玄蕃の裏切りに始まる。

もっとも、このシリーズでは、武田信玄の娘婿である「木曽義昌」の裏切りが非難される書かれ方をしているのだが、ここらは見方によって変わるもの。伊藤潤氏の「戦国鬼譚 惨」によると、もともと、木曽家は武田信玄の木曽侵攻の時に降伏した家なのだが、降伏と引き換えに許された木曽の木材の売買権の独占を勝頼が停止したり、織田勢が木曽谷に攻めてくるのに援軍を送らなかったり、といったことが裏切りの要因であったようだから、もともとは武田本家にその原因があったといえるのかもしれないですね。
援軍云々のことを考えると、高天神城へ援軍を送らなかった「深謀遠慮」も家臣たちには浸透していなかったようで、ここらは信勝の妙案も少し手抜かりがあった、ということかもしれません。

さらに、この段階になって、今までの信勝暗殺の刺客を差し向けてきた黒幕の姿がはっきりしてくるのですが、時既に遅し、といったところ。

ただ、ここらのもともとの原因は、武田信玄が武田勝頼を正統な後継とせず、孫の信勝の後見といった立場においたことがそもそもの原因のような気がするのですがいかがでしょうか。
そして、勝頼襲撃とみせかけた最後に放たれた刺客によって信勝が銃撃されます。この襲われた信勝の運命が

といったように武田家の運命を決定づけてしまいますね。ただ、史実では、信勝は勝頼とともに自決することになるので、そこらは勘案して読んでくださいね。「おっ」と注意を引くのは、最後の最後で勝頼たちを裏切った小山田信茂に対して、信勝の影武者レイリが

といった感じで声をかけ、このシリーズでは、彼の裏切りが穴山玄蕃の裏切りとは性質が違っているという判断を示しています。案外、このあたりが、武田家滅亡後、信長によって、穴山梅雪は許され、小山田信茂は処刑された本当の原因があるのかもしれないですね。

そして、物語のほうは、武田家滅亡後の後始末、といった筋へ展開していきます。信勝のうった「織田を割る」策は、偽造した信玄の書状が明智光秀の手に渡り、

といった感じで信長への叛意を拡大させることになります。ちなみに本能寺の変は武田家滅亡の3ヶ月後ですね。さらに裏切った穴山玄蕃の始末は

と、京都から穴山たちと一緒に自領へと逃れようとする徳川家康を、レイリが再び脅してなにか仕掛けを始めます。よくよく徳川家康という武将は、レイリたち武田家と縁の深い武将ですね。ここらに武田家の家臣を大量に雇用した秘密が隠れているのかもしれません。

この後、信勝の装束となったレイリと穴山玄蕃が対峙するのですが、結果は原書で確認を。家康の伊賀越えの時の「謎」の一つが解けるかもしれません。

さらに、後始末の最後は、信勝に仕えていた土屋惣三の一人息子・平三郎の仕官先さがしにも、レイリの旧縁が活用されることになりますね。

【レビュアーから一言】

敗者の物語というのは、勝者の目線から描かれるので、必要以上に悪く描かれていたり、敗れる者の思いは雲散霧消してしまっていることが多いのだが、正史ではほとんど注目されない「武田信勝」を狂言回しに使いながら、織田勢に家族を殺されたレイリという少女を主人公とした本シリーズは、多くの「戦国もの」とは違った味わいを出していますね。
天下統一ものの「強い物語」に飽きてきたら、こういうので口直ししてみてはいかがでしょうか。

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