ホームレス女子、がら空きの朝ごはん食堂を再生する ー 成田名璃子「ハレのヒ食堂の朝ごはん」(ハルキ文庫)

単身赴任をしていると、面倒なのが「朝ごはん」が結構悩みのタネで、ファーストフード店の朝食メニューも充実してきてはいるのだが、毎日となると変化をつけるのにも限界があって、「日替わり朝ごはん」なんていうのを出してくれる定食屋を探し出すのが、「幸せ」の分かれ目であったりする。

登録メンバーが集まって、夕食を自炊する変わった食堂「東京すみっこごはん」を舞台にした人情話を紡いでみせた筆者が、朝食しか提供しない店「ハレのヒ食堂」の美人店主「晴子」とちょっとドジな従業員「深幸」という、どちらもコミュ障の傾向のある二人が、食堂を繁盛させていく奮闘の数々と常連客とのふれあいを描いたのが、本書『成田名璃子「ハレのヒ食堂の朝ごはん」(ハルキ文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

1 噂の猫まんま
2 朝採れ野菜のサラダ
3 肴は、炭火焼きで
4 ハレの日、白ごはん

となっていて、まずは、本書の主人公の一人の「大家深幸」が、ホームレス状態になって行き倒れそうになっているところを、舞台となる「ハレのヒ食堂」に辿り着くところからスタートする。
辿り着くといっても、空腹に耐えかねて、この食堂で野良猫に与えている餌の「猫まんま」を横取りしようとして、ボス猫に撃退されるというなんとも情けない登場である。

で、この「ハレのヒ食堂」は、モデルに負けない美人の女性・晴子さんが経営していて、朝食だけを提供している食堂。そのメニューは、二つしかないといっても

一つは目玉焼き定食で、メニュー通りの目玉焼きのながさわ自然牧場の特製ハムもついてくる。コースターほどの大きさがある分厚いハムで、ほとんどステークと呼びたい贅沢さだ。卵も牧場から仕入れたもので、ぷりっと半熟に輝く目玉焼きは、フォークでつつくと、とろとろの黄身がゆっくりとハムの上に流れ出ていくのだった。
焼き魚定食は、もう少しあっさりとしているのかと思いきや、いつも脂の乗った旬の盛んを晴子さんが選りすぐって干物にするから、あっさりどころか食べごたえたっぷりだ。人口食べると焼き魚なのに身が溶けるよう。

といった魅力あふれるものなのだが、客は、不機嫌な女子高生・茜、注文以外は口をきかない本から顔をあげない「読書リーマン」、工務店の務めている口の悪い親父、といった数少ない常連客しか来ない「寂れた店」である。

そして、この食堂では、近くの公園の一角に畑を作って暮らしている「アラン会長」という老人のホームレスに、店の朝食を届けて味見してもらうのを常としているのだが、いつも「サラダ以外は出来損ない」と酷評される始末。

ひょんなことから、この食堂の店員として雇われた「深幸」は、彼女客に愛想もふりまけず、掃除のときには店の置物を壊してしまうドンクサさを発揮しつつも、調理を始めるとそれにのめり込んでしまって客の方へは意識がいかない、という不器用な食堂のコック兼経営者の晴子とともに、アラン会長に朝食の出来栄えを認めさせるとともに、店を賑やかにしようとあれこれ工夫を始めて・・・、という筋立てである。

そして、店のお客さんへの挨拶を「いらっしませ」「ありがとうございました」から「おはようございます」「いってらっしゃい」という朝ごはんの店らしいものに変えて、常連客とのコミュニケーションを増やすにつれ、女子高生・茜の悩みに気づいたり、工務店の親父が魚の炭火焼きグリルをDIYしてやると申し出たり、と店がどんどんと明るい方向へ変わっていく、と展開していく。

ところが好事魔多し、とはよくいったもので、アラン会長が倒れてしまったり、深幸の両親が、彼女を実家へ連れ帰ろうと故郷から出てくるアクシデント。さて、ハレのヒ食堂はどうなるのか・・・といったところで、ネタバレ的を少しすると、ちょっと苦いハッピーエンドを迎えるのだが、詳細は原書で確認してくださいな。

【レビュアーから一言】

食べ物屋を舞台にした小説というのは、その話にでてくる料理の様子がとても気になるもので、出てくる料理が美味そうなだと、知らずしらずのうちに、ストーリーに引き込まれて主人公に感情移入してしまうもの。
本書の料理描写は、例えば、行き倒れ状態でハレのヒ食堂に転がり込んだ「深幸」が振る舞われる「お粥」が

湯気をくゆらせるその皿の中には、じっくりと煮詰めたらしいお粥が、なみなみとよそわれていた。
とろりと煮崩れたお米は、乳白色の汁の中に優しく沈んでいる。その上には、揚げワンタンの皮、そして刻んだ青ネギ、おろし生姜が載せられていた。
(略)
レンゲを手に取るや否や、夢中ですくい取って、口へと運んだ。少しさましてあるらしく、ぬるめの温度で口に入れやすい。味付けは軽く塩を入れてあるくらいのようだけれど、溶けたお米は優しい甘さで、薬味で程よく風味づけされている。

といった風で、贅沢ではないが、なんともほっこりさせてくれる料理がそこかしこに出てくる仕上がりとなっている。深雪と春子の奮闘とあわせて、料理の数々もお楽しみください。

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