若き女性シューズデザイナーは謎解きに奮闘する ー 成田名璃子「不機嫌なコルドニエ 靴職人のオーダメイド謎解き日記」

プロのホテルマンは洋服ではなく、靴を見て客の質を評価する、という話があるぐらい「靴」が、その人の品格を表すものであるらしく、その中でも「ビスポークシューズ」といわれる、熟練の職人の手によって最初から最後まで、客の注文どおりに靴の部品からつくっていく手作り品は、その最高峰。
そんな、ビスポークシューズをつくる靴店を舞台に、地元横浜元町に起きる数々の謎を解き明かすミステリーが本書『成田名璃子「不機嫌なコルドニエ 靴職人のオーダメイド謎解き日記」(幻冬舎文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

SHOES1 優しい靴紐
SHOES2 サイズ違いのスニーカー
SHOES3 メッセージ・シューズ
SHOES4 憑いてる靴
SHOES5 覚悟のフラットシューズ

となっていて、最初のシーンは、イタリア留学帰りの新米シューズデザイナーの本巻の主人公・湯浅京香が、横浜元町のビスポークシューズの腕利き職人・天野の経営する靴店「コルドニエ・アマノ」で、デザイナーを求人していると聞いてやってきたら「雑用係」だった、と憤慨する場面から始まる。この就職話は、彼女の恋人らしき「雅也」という男性の口利きで、このあたりから不審な雰囲気が漂うのだが、真相は本編の中程で。

で、第一話の「優しい靴紐」は不承不承、「雑用係兼(ときどき)デザイナー」として勤務することになった京香と、店の見習い職人・前園雄大が、来店した15歳くらいの金持ちのワガママそうな少女から、新品の黒いオックスフォードシューズが気に入らないので、「デザインはあまり変えられない」けど「なんとかして」という注文に悪戦苦闘する話。京香は、靴の羽根のところのデザインを少しアレンジするという提案をし、雄大は「履き心地」をよくするという提案をするのだが、女の子は厳しく拒絶する。こ二人の提案は「これから服役する」自分には意味がない、と主張する女の子に、「靴の声」を聴くことのできる店主・天野の出した答えは・・・、という展開です。「服役」ていうのは、希望しない○○にいくことを象徴した言葉ですね、というのがヒント。

そして、この話で、京香は恋人・雅也から、天野は自分のデザインを盗用した人物で、彼が盗んだデザインノートを取り返してくれ、という依頼をうけますね。

第二話の「サイズ違いのスニーカー」は、商店街の花壇からごっそり植えたばかりのサルビアをごっそり盗んでいった「花泥棒」の犯人探し。犯人探しをしていくうちに、商店街の会長で、花屋の「フローリスト中野」の経営者・中野花香の息子・拓人が自分が犯人だと名乗り出るのだが、果たして彼が真犯人なのか・・、といった展開。現場には、二つのサイズのスニーカーの足跡が残っていたというのが、真犯人を突き止めるヒントになりますね。

第三話の「メッセージ・シューズ」の謎解きは、横浜の老舗宝飾店「元町ジュエリー」のオーナー・片瀬が持ち込んできた、父親から形見として譲られた「靴」の隠されている秘密を解きあかす、というもの。その靴を渡す時、片瀬の父親は「この靴の秘密がわかるようになったら、お前も一人前だ」と言った言葉がヒントですね。
そしてこの謎解きの並行して、京香の恋人・雅也が二股をかけていたことが判明します。そして、どうやら本命は京香ではなくて・・といった展開で、部屋に閉じこもった彼女を外に出す餌に、限定版のパンプスが使われるあたりはシューズデザイナー向けtらしいですね。そして、その限定版を提供するのが、「コルドニエ・アマノ」の店主・天野というところは最終話の注目点になるので覚えておいてくださいな。

第四話の「憑いてる靴」は、クリーニングで持ちこまれた靴が引き起こすポルターガイスト現象の謎。その靴は、友人から譲られたというものなのだが、実は世界的にも珍しい手作りの靴の逸品。その靴が預けられてから数日後、店の中に何者かが忍び込み、店内がめちゃくちゃに荒らされる。当然、泥棒の仕業と思うのだが、靴の持ち主は靴に憑いたポルターガイストの仕業と主張するのだが・・・、という展開。

第五話の「覚悟のフラットシューズ」の謎解きは、京香の妹の同僚が値打ちもののブランドのパンプスのヒールをすべてとって、フラットシューズにしてくれ、という注文に隠された謎。彼女は妹によれば、会社の屋上で飛び降り未遂のような行動もしていたとのことなのだが、果たして彼女が隠している秘密は・・、というもの。謎解きと並行して京香に二股をかけていた雅也と天野の関係が明らかになるとともに、天野が第三話で限定版のパンプスを持っていた理由もはっきりします。

【レビュアーから一言】

本巻で意外に「おぅ」と思うのは、出だしのところでは、プライドが高くて、天狗の鼻状態だった「京香」が、数々の事件や、恋人の二股かけの末の失恋といった経験を経て、「強い女性」としてリスタートするところですね。
最後の場面で、「コルドニエ・アマノ」を退職して、自分のブランドを立ち上げる決意をするのだが、彼女が開く店というのは・・・、といったところで詳細は原書で。

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