職場の絶えない「揉め事」のケーススタディ ー 各務晶久「職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント」

「人出不足」「世代間ギャップ」「グローバリズム」「ダイバーシティ」などなど、「働く場」を取り巻く環境は、激変といっていいほど変化が激しくなっていて、筆者が冒頭で言う

特に実感するのは、人手不足問題と呼応するように、約5年前から、急激に関与先企業内でのコンフリクトが増加していること

というのは、大なり小なり、ほとんどの「働く人」の実感するところであろう。

そして、その「コンフリクト」は、職場だけにとどまらず、組織全体に波及して大きな影響をもたらしてしまうのは、「ブラック職場」問題を見てもあきらかなところ。
そんな状況の中で、人事コンサルタントとして、「職場のトラブル」に関わってきた筆者が、現代的な職場の問題事例を実例に即しながら、問題点を明らかにして、解決の方向性を探っているのが、本書『各務晶久「職場の紛争学 実践コンフリクトマネジメント」(朝日新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに
事例1 オーナー社長VS大企業OB
「自分の給料分は利益を上げてください」
「なぜ、私が営業をやるんだ!」
事例2 ゆとり社員 VS バブル上司
「何でも手落ちと責められてもう限界!」
「まず上司の壁を突破するのは仕事の基本」
事例3 専門志向 VS 上昇志向
「社内飲み会に出ていてはスキルが保てません」
「将来の幹部には社内人脈が大事だ」
事例4 営業トップ VS 経営層
「これだけ部下の話を聞きヤル気を引き出しているのに」
「マネージャーは具体的な問題解決が第一」
事例5 「意識高い系」部下 VS 実直上司
「地味な下積みを続けるのは時間のムダです」
「財務の仕事を任せるには10年勉強しないと」
事例6 女性総合職 VS 男性上司
「幼い子供がいるのに宿泊出張は無理です」
「一般職の倍近い給料の総合職としてどうか」
コンフリクトマネジメント入門(理論編)

となっていて、6つの事例を取り上げて、事例に即して「紛争(コンフリクト)」が起きる原因を、それを起こしている人物ごとに「腑分け」してみるといった仕立てになっている。

とりあげられる事例は、例えば

大手の広告代理店の営業出身のOBが、従業員15人の会社で新サービスの宣伝・広告の仕事に就いたのだが、3か月後の契約更新で、実績の捉え方と採用時に提示された職務についてのギャップで社長とそのOBが対立( 事例1 オーナー社長VS大企業OB)

営業のトップセールスマンが、営業職を取りまとめるポジションになったのだが、部下の求める指導と彼の指導がかけ離れていたり、率先垂範の姿勢が自分の顧客や情報を移譲しないと思われたり、経営層の期待と齟齬が生じる( 事例4 営業トップ VS 経営層)

といった、以前から起こる職場内のコンフリクトから

総合職の女性のやり手社員が、結婚して出産後、出張とか育児への配慮を求めたことが、派遣社員や一般職の女性との対立を生む原因に( 事例6 女性総合職 VS 男性上司)

といった極めて現代的な事例まで、事例の数は限られているが、実際の会社現場で起こりそうな事例が取り上げられている。

で、これらに対する原因分析について、例えば「 事例1 オーナー社長VS大企業OB」の事例のコンフリクトが起きている大きな原因は

①双方が育った企業文化が大きく異なっているため、ひとつの物事を捉える際、認識が大きく異なってしまう
②大企業と零細企業の経営環境の違いについての認識の差、つまりはシビアさに対する温度差
③双方が相手を自分の都合のいい人物と思い込み、自分にとって「いい塩梅」に解釈していたこと

といった風に分析していて、一方に偏らない分析がされている。こうしたビジネス本のありがちな「強引な結論付け」に陥っていないところが良いですね。

ただ、それに対する「処方箋」の部分については、

外部から受け入れる人材、特に組織文化が大きく異なる企業・団地あkら受け入れた人材は、組織に馴染むまでに、大小のさまざまなコンフリクトを起こすものとしてケアしなければいけない
(略)
外部から受け入れた人材と適切に面談を実施し、ケアしている企業は多い。しかし、本院としか面談していないケースばかりだ。
ポイントは本人だkでなく、上司や同僚にもヒア稟議して、適応状況や収支との軋轢がないか確認することだ。

といったところまでとなっていて、少々食い足りないところがあるのは「新書」という形式の限界かもしれません。
まあ、「処方箋」の部分は、それぞれの企業環境、コンフリクトの発生環境でも大きく違ってくるので、冷静な「原因分析」がしてあれば良し、とすべきものかもしれないですね。

【レビュアーから一言】

「働く環境」が大きく変わっていく今は、こうした職場内のコンフリクトは増えこそすれ、少なくなることはないだろう。しかも、今までの年功序列や一社主義が壊れていくにつて、その内容も複雑になっていくのは間違いなくて、会社の労務担当者の苦労は増すばかりといえる。
スパっと一刀両断する解決法はないのかもしれないので、こうした事例本でケーススタディを重ねていかないといけいないんだろうな~、と思うのでありました。

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