千石は母親と再会。さて、二人は和解できるか・・ ー 豊田悠「パパと親父のウチご飯 10」(バンチココミックス)

前巻は、愛梨と清一郎が幼稚園で遊んでいる姿をこっそりと見守る初老の女性が登場したところで終わっていたので、さては次巻の主題はこのあたりかな、と思わせていたのだが、やはり今巻は、千石の最後の和解テーマ「母親との和解」がメインになります。
今回、この和解テーマが無事解決すれば、千石、晴海の抱えるわだかまりはほぼ解決することになります。

【構成と注目ポイント】

構成は

46話 手巻き寿司
47話 ゴーヤチャンプル
48話 メンチカツ
49話 豚汁
50話 だご汁
ウチレシピ
パパ飯レシピ

となっていて、まずは晴海が、愛梨の遊ぶ姿を見守る千石の母親に話しかけるところからスタート。46話から48話までは、千石と彼の母親との「歩み寄り」の物語ですね。

千石は、夜の商売をしている母親を嫌って、高校を卒業してすぐ家を出た、という設定になっているので、かなり長期間顔を合わせていない状態で、この二人の仲をなんとか修復しようというのだから、晴海の無邪気なおせっかいさも大したもんではある。

しかし、最初の家に呼んで仲良く「会食」ってのは、見事な失敗に終わってしまう。

まあ、千石の屈折した思いに気を遣わずに、一直線な手法を選んでしまうのが晴海らしいところでもあるのだが、正攻法だけではうまくいかないのが世の常である。
この事態を打開するのは、やはり、千石が頭の上がらない師匠の奥さん(千石と愛梨のことをこっそり母親に教えていたのも奥さんのようです)。晴海とこのことで喧嘩して飛び出して、師匠の奥さんのところへ転がり込むのだが、打開のきっかけとなるのは、そこの庭にできたゴーヤでつくる「ゴーヤチャンプル」である。
収穫したゴーヤの中にはすでに熟してしまっているものもあって、千石はこれを

と評するとともに、

といった母親の言葉を思い出すのだが、ここに愛梨を引き取って苦労した思い出がかぶさり、母親のことを恨みつつも、慕っている自分に気づくわけですね。この千石に芽生えた思いを表に出させて、和解への道をつくるのが、やはり元気娘・愛梨の

とゴーヤの赤い実がけして腐っているものではいことを教える行為。もっとも、愛梨はこの段階では、家にやってきた老女が、父親の母親、自分の祖母とか知らないので、全くの偶然のなせる技ではあります。
そして、千石と彼の母親との和解をとりもつのが

という「メンチカツ」であるのだが、これは千石が肉屋の出来たてを母親と二人で道端で食べた「ソウルフード」であるようですね。

第49話は、愛梨、清一郎の「お泊り保育」の話。当方の経験を振り返っても、物心がついてから、初めて我が子が一人で外泊する「お泊り保育」は、親も子供も不安いっぱいのイベントで、どちらも不眠状態となった記憶が残ってますね。

これは、心配性の清一郎だけでなく、元気娘・愛梨の場合も同じだっったようで、日中は食事づくりでドヤ顔をしたり、ホームシックにかかかって帰りたがる同級生をなだめたり、と振る舞っているのだが、夜中にふと目を覚ましたあたりから、ホームシックにかかってしまいます。まあ、この結果、翌日に千石が「お迎え」に行ったときに

といった行動に結びつくわけで、これは千石クン、嬉しくてたまらない状況ですね。

50話は、千石の師匠の奥さんのところへ、先日のお詫びとお礼にやってきた、千石・愛梨、晴海・清一郎親子なのだが、そこの家の猫・コテツの死から、「死ぬこと」について、愛梨と清一郎が学習する話。もっとも、学習するのはこの二人だけでなく、大人のほうもであるのだが、詳細は原書で。

ちなみに、「だご汁」っていうのは、大分県や熊本県の郷土料理の、小麦粉を練ってちぎった平らなだんごか麺状の具の入った「だんご汁」で、熊本ではだんごのことを「だご」と呼ぶことに由来するようです。味付けは地方によって異なるようですが、この話では、鶏もも肉と醤油が遣われているので、すまし汁風の「有明沿岸地方」由来のもののようですね。

【レビュアーから一言】

千石と彼の母親との和解劇の場面や、お泊り保育、さらには師匠の奥さんの愛猫・コテツの死のシーンでの、愛梨と清一郎が大人びた行動が目立つようになってくるのが今巻。二組の親子の共同生活も一年を経過したようで、二人の子供の成長を実感する10巻目であります。

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