元バリキャリ娘が「神使」見習いの小狐に憑かれてのドタバタ劇 ー 柏てん「京都伏見のあやかし甘味帖 おねだり狐との町家暮らし」

彼氏には捨てられ、仕事では失敗プロジェクトの責任をとらされて自主退職を迫られた、バリキャリ女子「小薄れんげ」が、失意の上で選んだ先は古都「京都」への逃避行、といったところから始まる、御当地ものファンタジーである。

その逃亡先の「京都」で出会ったのは、民泊サイトで探した宿泊先の主で、和菓子フリークの「穂積虎太郎」と、伏見稲荷神社で憑かれてしまった小狐の「クロ」という一人一匹。今まで一度も訪れたことのない未踏の地・京都を舞台に「れんげ」の京都生活が始まるのだが・・・、といった物語である。

【構成と注目ポイント】

構成は

一折 京都で狐と草食男子
虎太郎の甘味日記〜宇治編〜
二折 瓢箪からわたあめ
虎太郎の甘味日記〜平安神宮編〜
三折 白鳥はバーにいる
虎太郎の甘味日記〜松風編〜
四折 お菓子の喧嘩は狐も食わない
虎太郎の甘味日記〜出町柳編〜
五折 錦市場でつかまえて
虎太郎の甘味日記〜祇園編〜
六折 色い靄と消えた小狐

となっていて、まずは、失意のうちに京都にやってきた「れんげ」が、頼りない民泊先の主人の大学生・虎太郎に出会うところからスタートするのだが、ここで出てくる小ネタが、日本橋錦宝琳の「かりんとう」の「アーモンドシュガー」と京都・ゲベッケンの「パン」。ただ、この錦宝琳のものは「アーモンドスカッチ」しかヒットしませんね。

物語のほうは、京都にやってきた「れんげ」が観光も兼ねてでかけた伏見稲荷大社の「御産湯稲荷」の十二月の穴のうち、二月の穴に隠れていた、神使の見習いの「黒い子狐」の名付け親となってしまったばっかりに憑かれてしまい、彼女のまわりには様々な「怪しいもの」がやってきて、という展開。

やってくるのは、幸運をもたらすという「ケサランパサラン」や自分がどこの何の「神使」なのかをすっかり忘れてしまった「白鳥」といった面々で、彼らの悩みを解決してやったり、虎太郎と一緒に京都の菓子店や観光地を巡ったり、といった感じで、京都観光ガイドっぽいふわふわした話が続く。

ただ、そんな平穏な日々も長くは続かず、「小狐」の母親を名乗る「妖狐」が現れ、小狐をさらっていく。いつもは付きまとわれる鬱陶しさで邪険にしていた「小狐」がいなくなると、その大事さに改めて気づいた「れんげ」は小狐を取り戻すべく、伏見稲荷に向かうのだが・・・、といった感じの筋立て。
とはいうものの、大スペクタクルといった感じでは進まず、最後まで「ほぁっ」とした仕上がりなので、ここは肩に力を入れず、「東女の少々変わった京都旅」という感じで読めばよいかと思います・

【レビュアーから一言】

御当地ものの物語というものは、話のストーリーだけでなく、舞台となる土地の歴史の厚みといったものや、扱うアイテムの特殊性といったことが出来に影響してくるものなのだが、本書の舞台は歴史も風情も「横綱級」の「京都」ということで、これはくらい位負けしないかな、と思ったのだが、アイテムに「和菓子」と「稲荷」をもってくるとことで、ユニークさを確保していますね。

今話で紹介される名店の菓子は
・「御菓子司 能登掾 稲房安兼」の「茶団子」
・「京菓子司平安殿本店」の「平安殿」「粟田焼」「平安饅頭」
・「亀屋陸奥」の「松風」
・「亀屋伊織」の「きつね面」「貝づくし」「わらび」
・伏見夢百衆・「富栄堂」の「酒まんじゅう」
・祇園「鍵善長房」の「葛切」
といったところですので、お菓子好きな方々は、これを参考に京都旅行の折には立ち寄ってみてはいかがでしょうか。

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