フィルム・カメラが引き寄せる謎を解け ー 柊サナカ「谷中レトロカメラ謎日和」(宝島社文庫)

幕末の頃、カメラが日本入ってきた頃、「魂を抜かれる」といって撮影されるのを拒否する人がいた、ってな話が伝わっていて、真実のほどはわからないのだが、写真というのは、「昔」をそのまま閉じ込めてしまったようなところがあって、古くて黄ばんだ写真を見ると、当時の想いとか念といった霊力がこもっているような気がするのは間違いない。

ただ、それもデジタルカメラで撮影したものをディスプレイで見るときにはそうでもなくて、フィルムカメラで撮影したものを印画紙に焼き付けたものでないとそれほど「力」を感じないのが不思議なところ。本書は、そんなフィルムカメラのリサイクルショップを舞台へ持ちこまれるカメラや写真にまつわる謎を解き明かしていくシリーズの第一作が本書『柊サナカ「谷中レトロカメラ謎日和」(宝島社文庫)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 開かずの箱の暗号
第二章 暗い部屋で少年はひとり
第三章 小さなカメラを持った猫
第四章 タイムカプセルをひらくと
第五章 紫のカエル強盗団
第六章 恋する双子のステレオカメラ
第七章 あなたを忘れるその日まで

となっていて、まずは非常に親しい人物が死んでから引きこもり気味になっている「山之内来夏」という24才の女性が、その人・山内善治郎(作中では、最初のところで、50歳ぐらいでガンで死んだ来夏の肉親っぽい描写がされてるのだが、ここで来夏との関係に先入観をもってはいけません。)が遺したライカM3やⅢf、コダックシグネット35といった逸品のカメラとレンズたちを、フィルムカメラの修理と中古買取り販売をやっている「今宮写真機店」へ持ちかけるところからスタート。

その今宮写真機店の若主人、今宮龍一が、今シリーズの探偵役であるのだが、髪はボサボサで、普段は口数がすくないのだが、カメラのこととなると、人が変わったように夢中でしゃべりはじめるカメラ・オタクといった設定で、いわゆる「変人の探偵」というやつですな。

まず、第一章で持ち込まれるのは、「来夏」にその亡くなった人が遺した、小さな鉄の箱で、ダイヤル錠がかかっている。善治郎はなくなる前に、アルファベットで「YSME」と書いたメモとともに「今宮さんならわかるから」と言う言葉を遺して死んだらしいのだが・・・、という謎解き。この箱の中に入っていたのは、ご想像のとおり年代もののカメラなのだが、ダイヤルの暗号は、原書でご確認を。ただ、よほどのカメラ好きでないと解けないとは思います。もっとも、これが縁となって「来夏」が、
写真機店のアルバイトに入り込むこととなるのだが、その理由は最終章で明らかになるます。

こんな風に持ち込まれてくるカメラや写真にまつわる謎の数々を、今宮龍一が解いていくといった展開で、

例えば第二章の「暗い部屋で少年はひとり」では、写真機店の常連の小学生・吉田くんが、中学受験を控えて母親から受験に専念するためにお小遣いを貯めて買ったカメラを売り払われ、さらにはカメラ店へ行くことも禁止されてしまう。彼は今宮と「カメラをつくる」ことを約束していたのだがそれもご破産に。吉田くんは、自分の部屋から家具や家電を放り出したり、窓をすべて黒いビニールで覆ったりというレジスタンスに出る、それが意味するものは・・・

といった感じでである。

このほか、地域猫の活動をしているNPOの代表が世話をしている猫が小さなカメラをつけてきた謎とか、写真機店近くの薬局の前にあるカエルの店頭人形が、たびたび今宮写真機店の前に移動してくる謎であるとかを経て、最後の「来夏」が隠していた謎へとつながっていくのであるが、これから先は原書で。

【レビュアーから一言】

写真っていうのは、本来はごく即物的なものに過ぎないのだが、撮影した途端に「過去」が閉じ込められるせいか、これにまつわる謎もどういうわけか、妙に人間臭かったり、古色を帯びた風情をもち始める。一方で、そんな謎の数々を解き明かす、探偵役無機質感が漂っている、というのは「カメラ」という素材のゆえであろうか。そんな対比が印象的な謎解きの数々をお楽しみください。

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