街の中華料理屋は我々の心の故郷 ー 鈴木隆祐「愛しの街場中華 東京B級グルメ放浪記2」

出張や新規の取引先での仕事が終わった後、知らない街で昼飯を食いそこねて、空腹を抱えているときや居酒屋でしこたま飲んだ後、満腹中枢の麻痺した状況で小腹が空いた状況でふらふら歩いている時、黄色や赤の「〇〇亭」や「△△軒」といった看板を見つけて「ホッ」とした経験はないだろうか。

どんなメニューがあるのかわからない、バカ高い値段では、入ると常連客ばかりで居心地が悪いのでは、といった知らない街の知らない店につきものの「不安」を全くまとっていないのが、街にあるフツーの中華店というもの。

そんな、庶民の味方、国民食の提供者といっていい存在である「街の中華店」について、愛情をこめてレポートされているのが本書『鈴木隆祐「愛しの街場中華 東京B級グルメ放浪記2」(光文社)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめに「すべてはもののついでである」
第1章 下町中華のめくるめく世界
まんぷくコラム1 ラーメンスープに薫る洋食スピリット
第2章 城北・城南の谷間中華
まんぷくコラム2 郊外中華はファミレス仕様
第3章 副都心の街場中華を駆け抜ける
まんぷくコラム3 関東中華の本場、横浜にこそ弾力街中あり
第4章 学生街の中華店
まんぷくコラム4 秀才集う国立にガッツリ中華が息づいていた!
第5章 VIVA!生姜焼き
まんぷくコラム5 街場中華パワーで鬼門が幸運のスポットで
第6章 街場中華の母港・埼玉をゆく
まんぷくコラム6 大阪の中心部にありながら、最も庶民的な街で中華三昧
第7章 「街中的」中華チェーンとは
まんぷくコラム7 街中こそ国民食、庶民の無形文化遺産なのだ!
第8章 街場中華における半チャンラーメンの存在意義とは?
あとがき「街場の中華こそ民主主義の広場である」

となっていて、本書によれば街場中華というのは

とくにはっきりした定義はない。ただ街中にあって、私たちの舌になじんだ和式の中華屋を、ぼくや少数の同志がそう呼んでいるにすぎない。
だが対極にある存在ははっきりしている。本格的で、また高級な中華料理店だ。

ということで、TVとかグルメ雑誌とは、まったく縁のない「中華店」と考えておけばいいようだ。
ただ、そういった店の料理が魅力がないといえばそんなことはなく、「ラードで豪快に炒め、塩胡椒に日本の醤油で一直線に味をまとめた」味っていうのは、我々の味覚の根底を支配しているといって間違いない。

で、紹介される中華は、穴場感のある大森の「開華亭」では

餃子の餡は、薄い皮にはちきれんばかりの具。「肉感」の中に、粗めに切った野菜の食感がいい。これを酢醤油に浸すように食べると、ビールが進む進む。焼売はトップにちょこんとカニ肉が乗って、見目麗しくもあり、かなりのヒット。

といった街場中華の点心の王道「餃子」と「焼売」が提供されるし、学生の街「早稲田」の「秀水」では

香港の屋台飯を彷彿させるようでいて、それより上品なかけご飯の系統が美味すぎる。特に「白果鶏飯(とりめし750円)」は定番で、均等にカットされた鶏肉とピーマンと玉葱、そして銀杏がマイルドな醤油味sで風味よく炒められ、これでもかとばかりに白めしの上に乗る。そしてなぜかよく出汁の取れた長ネギと油揚、あるいは大根などがたっぷり熱々の味噌汁がつき、口の中の脂を適度に緩和してくれる。

といった具合。
また、中華の定番でもある「麺」でも、今流行の「ラーメン店」とはちょっと趣違っていて、街場中華の意外な本場・埼玉の「大陸」の「もやしそば」も

これが横浜の生碼麺を彷彿とさせる、しっかりととろみをつけた餡が乗る逸品だった。ラードが程よく浮いたスープは鶏ガラの風味がしっかり封じ込まれ、もやしもくたくたとシャキシャキの中間ぐらいでちょうどいい塩梅だ。5ミリ寸にきれいにカットされた豚コマ、ニラにニンジンスライスも必要にして十分な量がじ入り、この餡を引き立てている。

と我々の食欲と本能を刺激いたします。
このへんは、有名ラーメン店や高級中華、高級フレンチやイタリアンでは呼び覚ますことのない「民族意識」のようなものでありましょうか。

これ意外にも、東京、横浜、埼玉の数々の街場中華の名店が登場します。当方的には、「街場中華」は「都会の華」のような感じがしているんどえあるが、その百花繚乱をたっぷり読んで、街に繰り出してくださいな。

【レビュアーから一言】

日本ほど世界各国の料理が食べられるところはない、というがその基礎をつくったのは、こうした「街場中華」が安価な値段で、日本人の舌をオープンにしてきたからでもあって、それは高級料理店やファストフード店では到底つくりあげることのできない「日本独特の食文化」でもある。
マンガやアニメと並んで、「街場中華」も「クールジャパン」に認定してはいかがでしょうか。日本料理に負けない、日本人のソウルフードであるように思うのですが・・・。

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