「コミュニケーション」の名に隠れた「自分自慢」はダメ ー 吉原珠央「自分のことは話すな」

先だって、ビジネスにおける「雑談」の役割についていくつかのレビューをしたところなのだが、このことについて「雑談は本当に必要なの?」と真っ向から立ち向かうビジネス本を見つけたので、公平のためにこちらもレビューしておこう。

筆者は、ビジネスパーソンに「プレゼンテーション」のアドバイスなど「コミュニケーション」を軸とした仕事をされている「イメージコンサルタント」で、多くの講演もこなし、ビジネス書の著作も多い、というビジネスバリバリの女性である。で、そんな著者からの

「相手は自分の話に大して興味を持っていない」という客観性を持ち合わせている人は、どれだけいるでしょうか。 実は、このことを意識して話しているかどうかで、仕事も人間関係も、ものすごく大きく変わるのです。

という挑戦的なメッセージで始まるのが本書『吉原珠央「自分のことは話すな」(幻冬舎新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 余計な話をすることが無意味なワケ
第二章 ムダな会話をせずに相手の心を開く
第三章 「話癖」を直すだけですべてが劇的によくなる

となっているのだが、まず最初のほうで

この「自分よりも大変な思いをしている人がいる」という考え方によって、余計なことや、相手を疲れさせるだけの意味のない雑談を回避することができます。 「自分をわかってほしい」「話を聞いてほしい」といった気持ちが生じることはごく自然なことではありますが、現在は、「出会ったら、相手のことを3つは知ろう」を会話で実践しています。

「私は」と、自分を主語にして話し始めるのではなく、相手の名前を声に出し(ほぼ強制的にでも)相手が話せるよう、答えやすい話題をふってみるのです。

と釘をさしているのだが、その本旨は相手にとって興味のない「こちらのこと」を押し付けるのではなく、相手の興味ある事、相手の知りたいことをまず話すのが先決でしょ、ということであるらしい。

「余計な話はするな」という挑戦的な書きぶりではあるが、その「余計な事」が「相手にとって」という視点からのものであることは、まず着目しておかないといけないだろう。

本書は、キツイ言葉があちこちでてくるので、そこに過剰反応しないで意味をくみ取らないといけないのだが、たしかに、忙しく時に限って、だらだらと自分の事情ばかりを喋られて、時間をかなり使われてしまったという経験は誰しもあるもので、こうした「短縮」なら願ったりかなったりである。
そして、著者が不要と位置付けるのは

本書で私が「いらない」と伝えている「雑談」には、大きく3種類あることを紹介させてください。
①相手から「求められていない話」……あなたの意見やアドバイスなどごく一般的な内容
②「○○であろう話」……確証のない噂や推測の「多分~だと思います」といった内容
③「得のないムダ話」……会話を途切れさせないためだけの「だから何?」といった誰も得をしない内容

ということでこれは至極まっとうな提案でありますね。ただ、そうかといって、初対面でも、何の前触れもなく突然商談を始めろ、と主張しているのではなく

仕事上の関係の中で初対面で挨拶をして、天気の話になってもよいのですが、本書では、その際に一つ提案をさせてもらっています。
それは、天気の話題を「雑談」で終わらせるのではなく、最終的には「もっと話したくなる人だ。」「あなたは信用できる」と感じてもらい、関係が一歩前進するように会話を着地させるという主旨の提案です。

ということのようなので、そこは「相手の時間を無駄に浪費するな」というベクトルで読んでおくべきなんでしょうね。
そして、そうした視点からいくと、とかく相手のことを大事に考えているように見えて、実は「自分が」が出てしまう態度には十分気を付けないといけなくて

Aさんのように、相手に共感しようとするところまではよいのですが、結果的に相手の話を奪ってしまうというケースは多々あります。
相手の話を聞くや否や、「私も同じ!」「私も一緒よ!」「私なんて、もっと大変だったの!」などと話し始める人は、たとえ、相手のためを思ってという気持ちがあったにせよ、自己中心的な印象を与えてしまっていることに気がついていただきたいのです。
(略)
あくまでも相手の存在を優先的に考えているという反応を示すべきで、自分自身の情報は最低限にすることがベターです。

無意味な話をしない人になるためには、「自分のことも話したい」という感情を上手にコントロールする忍耐力も必要なのです。
簡単にいえば、「私自身のことは一切話すまい」といい聞かせて、口を閉ざしておくことです。

といったように、きちんとした「自制」」がなによりも必要なものであるようです。

このほか『「とにかく、こちらが褒めれば、相手は必ず喜ぶ」という思い込みが実は失礼』とか『常に計算高く状況を見ている人たちのほうが、様々な選択肢から問題解決法を探り、お互いがWin-Winになる結果へと繫げていくスピードが速い』などといった、刺激的な言葉やアドバイスが出現するのですが、筆者の意図は細やかなところに根差しているところもあるので、食わず嫌いせずにちゃんとくみ取りましょう。

【レビュアーからひと言】

かなり実利的な側面があったり、母親兼バリバリのビジネスパーソンらしく「手厳しい」ところも多々ある本なのだが、本旨は

私たちには、もう雑談は必要ありません。
自分自身と相手のために、その時間が輝くような会話をしていきましょう。
相手に刺さる言葉は、あなた自身がすでに持っているのですそもそも、「相手は自分の話に大して興味を持っていない」という客観性を持ち合わせている人は、どれだけいるでしょうか。 実は、このことを意識して話しているかどうかで、仕事も人間関係も、ものすごく大きく変わるのです。

ということで、とかく「独り善がり」になりがちな「コミュニケーション」の問題を、「他人目線」で点検していく必要を訴えているところに本書の価値もある。コミュニケーションは「自分」と「相手」の双方の関係性の中にあることを忘れてはいけないようですね。

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