信長の海外雄飛を脅かす「南蛮」が忍び寄る ー 梶川卓郎「信長のシェフ 25」

現代からタイムスリップをしたフレンチのシェフが、織田信長の専属料理人となった上に、彼の命を受けて信長の前に立ちはだかる様々な難題を「料理」によって解決していく「信長のシェフ」シリーズの第25巻。

時代的には、石山本願寺との争いはまだ決着しておらず、反旗を翻した「荒木村重」もまだ頑強に抵抗中ということで、浅井・朝倉はすでに滅ぼし、武田信玄。上杉謙信といった戦国の雄も亡くなって信長の天下一統の目前となっているのだが、まだまだ敵の多いときですね。

【収録と注目ポイント】

収録は

第206話 秘匿の兵器
第207話 激震
第208話 織田を討つ策
第209話 謀叛の裏側
第210話 風味よき酒
第211話 宣教師の使命
第212話 オルガンティーノの進物
第213話 偽りの理由
戦国めしRecipi パンナコッタ蜂蜜とスパイスソースがけ

となっていて、まずは、織田の九鬼水軍と、毛利の村上水軍との激突。最初の激突は、第20巻ででてくる「第一次木津川の戦」の時。織田軍の包囲網を突破して石山本願寺に物資を運び込むという同じシチュエーションなのだが、先回の時は、土鍋に火薬をつめて投げ込み船を炎上させる「焙烙火矢」や小舟の集団攻撃で、九鬼水軍は惨敗であったのだが、今回も

と村上水軍の長・村上武吉の采配は見事であるのだが、信長が用意したのは

といった完全武装の鉄鋼船。ここらには、戦の形態を「刀槍の戦」から「鉄砲の戦」に変えてしまった、信長の革新性が現れています。ここらにも信長が関所の廃止などの重商政策を進めてきた理由がわかるようです。
結果として、第二次木津川の戦では、

と「熟練」は「技術力」の前に破れてしまうのですな〜。

本巻の中ほどから、南蛮の宣教師・オルガンティーノが登場してきます。オルガンティーノは、ルイス・フロイスとともに日本のキリスト教の布教に力を尽くした人で、ネットによると「明るくて魅力的で日本人の人気があった」とあります。パンの代わりに米を食べたり、仏僧の着物を着たりとかしていたらしく、まあ人気のある外人タレントのような感じですかね。

で、このオルガンアティーを信長が安土に呼ぶのですが、その発端は、九州の貿易商人から先だって信長がつくったように大筒を積んだ船を肥前で見たいう話から。信長には、将来の対外戦略を睨んだ魂胆があるのですが、オルガンティーノのほうにも

といった含むところがあるようです。まあ、イエズス会っていうのはインドでもアメリカでも布教活動がスペインとかポルトガルとかの当時のヨーロッパ列強の侵略と同一軌道にあったことは有名なので、本書で描かれている路線もあながち虚構でもないかも。もっとも、オルガンティーノは禁教令後も日本に残り、1597年の日本二十六聖人の殉教の際には、彼らの削ぎ落とされた耳の受取人になって、彼らの供養(?)をするなどしてくれているし、「輪たちには全世界じゅうでこれほど天賦の才能をもつ国民はないと思われる」と日本人のことをベタ褒めしてくれているので、あまり悪く言っちゃいかんかもしれんですね。

本巻では、ケンの調理場に

といった風情で現れて

と言い放ちます。しかも、ケンたちではけして「作れない」料理をつくるというのですが、彼がつくるのは果たして・・、と言ったところで、詳細は本書で確認してください。本書でオルガンティーノの生まれ故郷がイタリアであることは間違いないです。

ちなみに、本巻でのケンの料理は「鳩の卵と季節料理の温かい前菜・アイオリソース」「シュトレン」「パンナコッタ蜂蜜とスパイスソースがけ」「雌牛肉と米の煮込み」といったラインナップですので、詳しくは原書で。

【レビュアーから一言】

本巻のなかほどで、信長が

と光秀に謎をかける場面がでてきます。光秀は信長を殺すための条件として、信長の警備が手薄で近くに重臣の軍がいないこと。徳川家康を封じること、などの条件を出し、その条件が揃うのはほぼ無理、となるのですが、「本能寺の変」は、光秀がこうしたシミュレーションを繰り返すうちに、「今ならできる」と魔がさしたこのかもしれんですね。

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