上絵師・律の似顔絵の技が、両親の仇をあぶり出す ー 知野みさき「舞う百日紅」

江戸の神田相生町に住む、女性の上絵師・律を主人公にして、彼女の絵師としての成長と、彼女が描く「似面絵」(似顔絵)を手がかりに、幼馴染の葉茶屋の跡取り息子・涼太とともに、もちこまれる様々な事件を解決していく「上絵師 律」シリーズの第二巻が本巻『知野みさき「舞う百日紅 上絵師 律の似面絵帖」(光文社文庫)』である。
第一巻では、「律」の絵師修行と、幼馴染・涼太とのなかなか進展しない恋、といったところが目立って、「似面絵」の事件解決はちょっとおずおずとしていたのだが、本巻からは、律のところに持ち込まれる悩み事を解決するのに、彼女の「似面絵」がおおきく貢献するとともに、律の仇討ちも大きく進展していくのが本巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 上方から来た男
第二章 迷子の行方
第三章 舞う百日紅
第四章 簪の花

となっていて、まず第一章の「上方から来た男」は、浅草の生薬屋。万寿堂に入った遅込み強盗の似顔絵を仕上げるところからスタート。たった一人生き残った店の主人一家のの次男の犯人を探そうという熱意に、自らの両親の捜索に乗り出した律が、番町のお屋敷町で、父親の遺した犯人の似顔絵に似た「うりざね顔」の男を見つけるところから、お律の仇討ちが本巻で大きく進展していく。
もっとも、第一話で見つけた犯人らしき男は、両親が殺された時は、上方にいたようで、残念ながら犯人ではないのだが、その男・四郎がもたらす情報が真犯人へとつながる貴重なものとなります。
この捜索の途中で、四郎に誘われて、居酒屋に入るお律に、危うさを感じるのだが話のほうもっと思いがけない展開をします。

第二章の「迷子の行方」は、お律の描いた迷子絵が十年前の迷子を探し当てる話なのだが、美談に終わらないのが、このシリーズの凝ったところである。話のほうは、律の描いた似顔絵が、音羽町あたりで行方知らずになった子供の発見につながるのだが、これを聞きつけた「濱」という女が10年前に6歳で行方知れずとなった娘の似顔絵を頼んでくる。まさか10年前の似顔絵で見つかるはずが、と思っていたのがとんとん拍子に見つかっての、実の両親と育ての親との人間模様が描かれるのだが、実の母親の「濱」が律に似顔絵を頼んできておきながら代金の支払いを渋ったあたりに、隠された真相が見えてきます。
なお、本章で、律の父親の根付が故買屋もやっている気配の質屋の堀井屋で発見され、だんだんと律の両親殺しの犯人に近づいている感じがします。

第三章の「舞う百日紅」では、いよいよ両親の仇と遭遇する。きっかけは、父親の根付を見つけた質屋の「堀井屋」に律が単独ででかけ、偶然、父親の「巾着」をそこで見つけて話が大きく動いていく。その巾着を譲ってくれ、という律に対し、堀井屋は先約がいるので、その客に断らないといけないので後日来い、とまるで「罠です」といわんばかりの対応なのだが、そこに飛び込んでいくのが、最近の律の度胸のよさ、ですね。池見屋の女将に鍛えられてきたせいか、シリーズ最初の頃に比べて随分たくましくなったきています。
この仇討ちの詳細は原書で。いくつかのアクションシーンもあります。

第四章は、仇討ちの捜索をする中で、律が身につけた捜査の腕前が発揮されます。とっかかりは、律のところに「許嫁」のに似顔絵を描いてくれ、と若い男が頼んでくるところから。この前に、律は幼馴染の香のはからいで、日本橋の大店の娘たちの似顔絵を描いて商売にしていたのが、この依頼を呼び込むきっかけになってます。そして、その「許嫁」といっていた娘が、本当は茶屋の看板娘だったのだが、その娘が何者かに絞殺されて・・、といった形で展開していきます。

【レビュアーから一言】

律が両親の仇を討てるきっかけとなるのが、質屋・堀井屋で見つける「巾着」なのですが、これが「甲州印伝」の巾着となってます。甲州印伝というのは、鹿革に漆で模様を付けたもので様々な製品をつくる工芸品のようで、江戸時代は各地で製造されているらしいのですが、現在まで製法が伝わっているのは甲州印伝だけのようです。国の伝統工芸品にも指定されているようで、山梨県の「郷土伝統工芸品」にもなっているようですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました