信長への包囲網は上杉謙信を主役に再々結成。信長の作戦は如何に ー 宮下英樹「センゴク天正記 6・7」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason2「センゴク天正記」の第6巻と第7巻。

設楽原の戦で、当時、最強と言われた武田の騎馬隊の攻撃を防ぎ、山県昌景、馬場信春、真田信綱といった勇将・智将を討ち取り、武田勝頼を敗走させた信長軍が、天下布武に向けて、越前一向門徒、雑賀衆など、ボスキャラ・石山本願寺に向かう前に地ならしをするのがこの二巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

第6巻
VOL.50 越前侵攻
VOL.51 越前門徒殲滅戦
VOL.52 北国の脅威
VOL.53 雑賀の孫市
VOL.54 同時侵攻
VOL.55 情報戦
VOL.56 雑賀一和
VOL.57 織田家の不安
VOL.58 安土城
VOL.59 運命の年

第7巻
VOL.60 雑賀の郷
VOL.61 雑賀と根来
VOL.62 小雑賀川の合戦
VOL.63 孫市の狙い
VOL.64 ヒョウタンの旗
VOL.65 師弟の邂逅
VOL.66 第一武功
VOL.67 不可思議なる御仁
VOL.68 次なる時代の合戦
VOL.69 七尾城

となっていて、第6巻の出だしは、信長に攻められている越前の一向門徒を救援するため、本願寺側が上杉謙信に助力を求めるところから開幕。謙信は

と言ってこれを断るのだが、後に、織田勢と激しく対立することになることを考えると、謙信の気まぐれなところが現れている気がします。

この越前の地は、以前朝倉義景を滅ぼし、織田の勢力圏内にあったはずなのですが、後を継いだ朝倉景鏡の人望がなくて、本願寺の勢力圏内に入っているところに、織田勢が再び侵攻という構図ですね。
コミックの本編では詳細な記述はないですが、降伏する一向一揆側の武将を許さなかったり、一揆勢の崩壊後、「男女を問わず切り捨てよ」と信長が命じたとか、一揆勢は1万2千人あまりが打ち取られたり、奴隷として3万から4万の人々が尾張に送られていて、長島の一向一揆を鎮圧した時に負けず劣らない殲滅戦が展開されたようです。

この越前の一向宗が壊滅状態になったことで危機感を覚えた石山本願寺勢は、紀州の一向門徒とも親しい雑賀衆を味方に引き入れることに成功。雑賀孫市の

という問いに対する本願寺光佐の回答が決め手となりますね。
そして、この雑賀孫市たちによって、信長狙撃作戦が敢行され、信長は瀕死の重症をおうこととなります。

まあ、これによって信長の生死が不明となって、謙信が織田との決別を決めるのでですから、本願寺としては雑賀と手を結んだ甲斐があったというところですね。

 

この孫市の狙撃から回復した信長は、復讐というわけではないのでしょうが、雑賀攻めを始めます。ただ、雑賀のほうも一枚岩とはいかないようで、山側に居住するほうは信長に味方をします。ここらには、信長の経済政策が功を制していますね。

織田勢から攻められる雑賀孫市は雑賀城へ籠城。彼が考えた、明智、羽柴、竹中、堀の諸隊への攻撃作戦は、「かくれんぼ作戦」というゲリラ戦術+孫一らによるスナイパー戦術。

子供を使って相手を油断させておいて子供に狙撃させるもので、現代戦でもとよく見られるものなのだが、あまり後味のいいものではないですね。


そして、標的とするのは織田家中でも一、二の出世を争う羽柴藤吉郎で、彼が狙撃されれば、木津川で原田を狙撃した時のように、怒り狂った信長が藤吉郎を改易するような苛烈な処分をするだろうから、それによって家中の動揺を誘うものです。
この孫市による藤吉郎の狙撃は、センゴクの部下となっている津田妙算が狙撃の一瞬前に、孫市の煙管を弾き飛ばして阻止します。秀吉も信長同様、命を拾ったようなものですね。

この後、半兵衛によって、雑賀を攻める愚が信長に進言され、雑賀との和睦が成立するのですが、雑賀との和睦を受けて、信長は安土城下での楽市楽座を宣言します。この本当の狙いは、越後、加賀、雑賀との往来の自由化を図り、織田家の領土内で商売が繁盛していることを見せて、それぞれの反抗心を削ごうという狙いですね。

腹が満腹になれば争う気もなくなる、ということでしょう。信長の戦の真骨頂は、こうした経済戦略で相手を打倒していくこと、まさに孫子のいう「戦わずして勝つ」を体現するところではないかと思います。

【レビュアーから一言】

孫市に狙撃された信長が死んだと思って、謙信が本願寺と手を結ぶことによって、「信長包囲網」が再々結成されることになります。信長は一向宗や延暦寺に見せた苛烈さや、桶狭間の奇襲戦などが注目されることが多いのですが、何度も展開される敵の包囲網にひるむことなく、その都度突破してきたしぶとさのほうを評価したほうがとよいかと思います。

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