異色のプロファイリングチームが爆弾魔を追い詰める ー 佐藤青南「アイアンウルフの箱」

ASDの傾向があってコミュニケーション能力のほとんどない警視庁科学捜査研究所所属のプロファイラー・土岐田秀一と、サイコパスの警察庁公安部所属の捜査官・塚本拓海、コンピュータを使った情報収集・分析を担当するハッカー・エイジ、彼らの暴走を止めたり、コミュニケーション能力皆無の土岐田のサポート役の通常人の新米刑事・八木小春の4人のC-Masメンバーぬ加え、今巻きでは小春の先輩・間柴も応援に加わっての、警視庁プロファイリングチームの活躍を描く。「犯罪心理分析班 八木小春」シリーズの第2弾が『佐藤青南「アイアンウルフの箱 犯罪心理分析班 八木小春」(富士見L文庫)』。

前巻の最後のほうで、このプロファイリングチームC-Masも正式なチームに昇格したのだが、警察内部での扱いは以前と変わらない「ハズレ者」扱いなんであるが、そのハズレ者が、本命の捜査本部以上の働きに感じる爽快感は相変わらずスカッとしますね。

【あらすじと注目ポイント】

話のほうは、まず土岐田が捜査の相手方を激怒させるところから始まっていて、今回の相手は国会議員の南牟礼。ただ、その国会議員もちゃんとした人物ではなくて、与党所属ながら、女性蔑視や差別発言で世間から批判にさらされても全く反省せず、おまけに権力を傘に来ての威張り放題、という人物である。
そんな彼の地元事務所に爆弾が送りつけられてきて爆発し、男性秘書が一人重傷を負った、というのが今回の連続爆弾魔事件の最初の事件。

もともとはいろんなところに敵のいる議員の事務所なので、狙う人はいっぱいいるし、ひょっとするとこの議員の自作自演ではと疑われるようなところもあるのだが

この国は無能な人間に権力を与えすぎた
自浄能力のない国民に代わり不適格な政治家への鉄槌を下す
ー革命結社アイアンウルフ

という脅迫状が送られてきたので、恨みによる単発の爆弾事件として処理するわけにもいかず、捜査本部が設置され、ここに土岐田・八木のプロファイリングチームも参加しているという具合。そして、参加してすぐに爆弾に単2電池が使われ、てんこ盛りのはんだ付けがされているところから、アメリカの「ユナ・ボナー」に心酔する人物で、数年前に連続爆破事件を起こした人物が、その後爆弾づくりの腕を磨いての再登場といった犯人像を絞り出してくる技術は流石のものがある。ただ、犯人候補者と居住地候補をリストアップすしたいいのだが、現場の聞き込みとなると、途端に能力不足となるのが玉に瑕である。今回は、署長や管理官が見せかけの許可だけ出して、小春たちの捜査の邪魔をするのだが、先輩刑事の間柴の機転で、出世街道けら外れたはぐれ者だが、有能な警察官たちの協力を得ることで、爆弾犯に迫っていくこととなります。

さらに捜査が本格化したことによって、爆弾犯が鳴りを潜めてしまわないように、偽ならアイアンウルフを仕立てて、つぎの犯行を誘うといったことや、あぶり出した犯人候補者の自宅に令状なしに家宅捜査するなど、違法行為っぽい捜査は前巻同様健在であります。

で、爆弾犯の犯行は、南牟礼の恩師で彼の支持者とされている憲法学者・玉木の研究室で、助手の女性を爆死させとうとう死者を出すことのなる。そして、次の標的はなんと、このシリーズの主人公・土岐田へと向かうのだが、彼が狙われた理由は・・といった展開です。

こうした爆弾犯というのは、たいてい政治信条にのっとった知能犯罪というイメージがあるのですが、そう思って読んでいくと、最後に足を掬われてしまうので要注意です。真相のほどは、原書で確認してください。

【レビュアーから一言】

法律を平気で犯して捜査をするサイコパス二人と、ASDの土岐田に翻弄されて、最後のほうで、それまで我慢してチームをまとめてきた小春ちゃんが怒りくるって、チームを辞めると言い出します。それを聞いた土岐田は、この事件が終わったら捜査一課に戻れるようにすると約束します。小春はとうとう、このチームを離れることになるのかどうか、最終場面で確かめてください。もちろん、塚本・エイジ・土岐田たちに何のたくらみもないとは思えないのですが・・・。

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