生涯キャリアを自分で決める時代の上司と部下の在り様は  - 新井健一「いらない部下、かわいい部下」

昔のサラリーマンの映画やTVドラマを見ていると、上司の言うことを無批判に受け入れて部下に命令する「ごますり」タイプや、上司の後ろにくっついていくことを最優先にしていて社外との付き合いは二の次、といったタイプがよくでてきたものだが、最近のビジネス現場をみると、そういうタイプが出世したり、上司に可愛がられていることを見るのは少なくなっているといっていい。
では、どういうタイプが上司に見出されて出世しているかとなると、一律の基準は見いだせなくなっていて、自分がどんな方向で企業社会を泳ごうか羅針盤をなくしているビジネスパーソンが増えているのは間違いない。
そんな「海図」のない現在において、経営層や上司から「選ばれる部下」とはどんなものか、をサジェッションしてくれるのが本書『新井健一「いらない部下、かわいい部下」(日経プレミアシリーズ)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにーいまあぶない部下とは
第1章 かわいい部下は「お土産」を欠かさない
 -いまどきの上司が求める社内接待
第2章 無視していい上司、侮ってはいけない上司
 -出世レースから外れた女子に価値がある
第3章 選ばれる部下は上司を見ていない
 -出世する部下、しない部下
第4章 部下の人間性は飲み会の支払いでバレている
 -上司は部下をどう見ているか
第5章 大企業サラリーマンこそなぜ副業が必要か
 -これからの会社員の働き方とは
おわりに

となっていて、まず意識しておかないといけないのは

これまでの勝ちパターン→「すでにある価値」を模倣して改良する
これからの勝ちパターン→「どこにもない新たな価値」を創造する

といった形に、ビジネスモデルが変わっていること。

この変化によって、今まで昭和のころから綿々と培ってきた「職場のノウハウ」というやつが崩れてしまい、

ガラパゴスな部下とは、簡単にいえば「社外にもっていっても全く使えない知識やスキルばかりを蓄えながら、わけ知り顔で周囲をネガティブなほうに巻き込もうとする社員」のことをさす。

といった感じで、以前なら「社内のいろんな状況を知っている」と重宝されていた人材が「使えない人材」になってしまっているのだろう。このへんは、武家の台頭で、今までの有職故実が役に立たなくなった「お公家さん」と同じようなものですね。
なので、本書による「デキる部下」というのは、例えば

顧客や市場は変わり、それに合わせて、様々なサービスが生まれ、進化していく中で、上司は目の前の仕事に追われ、世間の消費に目を向ける余裕などない場合が多い。
それに、上司という立場にあるサラリーマンの消費は、多くの場合、硬直化しているはずだ。
(略)
そんな上司に対して、新鮮で興味深い「情報」を届けるのが、かわいい部下の携える土産なのである。

といった感じで、上司に不足している情報やノウハウを届けることができるのが「デキる部下」ということで、ここらはマーケティングの基本と相通じるものがあるようです。

そして、これからの時代に重要となるのは「自分の生涯キャリアは会社を当てにせず、依存することもなく、自分で経営していかなければならないこと」を自覚することだとしていて、そのために、筆者が重視しているのが「ノリ」(会社や上司が大事にしている仕事上の価値観)が合うということ。
そのため、

合わないノリの会社や上司に<いらない>と言われても気にする必要はない

このノリは、まだまだ日本の大企業・上司には理解されないのが実情だ。
いや、違う。より正確にいえば、理解されないのではない。彼らは理解という知性の範疇を超えて、イキのいい部下のノリを受け止めて伸ばしてしまっでは絶対にいけない、と感じている。
なぜなら、彼らは相変わらず、自分は大した仕事をしていない、という後ろめたさを心の片隅に押しやりながら、その在り方を維持するためには、部下にもそうあるように仕向ける必要があると知っているからだ。

といったところは皮肉な表現ではあるが、今、組織の中にいるのだが、生涯キャリアを自分でつくろうと思っている人は、足を引っ張られないように気をつけておかないといけないところです。

このほか、課長から部長、役員へと昇っていくために「決め手」となることとか、今流行の「副業」のあたりでは「お金を払って「ただ働き」の副業をするべき理由」とか「大企業のサラリーマンほど副業をすべき理由」など視点の変わった考察があるので、将来、独立を考えている人や起業(社内起業も含めて)考えている人は、おさえておいて損はないと思います。

【レビュアーからひと言】

本書の魅力の一つは、あちこちに散りばめられる、少し皮肉っぽい現代企業社会の分析で、例えば

日本の職場の暗さ、サラリーマンの自尊感情の低さは、ITの普及が原因
・ITは確実にサラリーマンの労働生産性を上げた。その結果、1日8時間で働くほどの仕事がなくなってしまった。
・日本のサラリーマンは喜ばしいと感じるよりも、「定時まで働くための仕事が奪われてしまった」ことに、不安と罪悪感を覚えたのである。
だから、不安や罪の意識を払しょくして、引き続きこれまでと同様に働けるよう1日最低8時間の勤務を満たすよう、意図的に仕事をつくった

といったあたりは、IT化などによって、オフィスを取り巻く環境が変わっていっても、時間外労働も減らず、企業文化も変化しない本当の原因をあぶりだしているようです。こういったところを拾い読みしても面白いかもしれません。

【関係記事】

生涯キャリアを選択する時代の「働き方」とは ー 新井健一「働かない技術」

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