あくどいライバル・氷川屋に経営危機勃発。なつめの慕う「菊蔵」の運命は ー 篠綾子「ほおずき灯し」

徳川綱吉の時代を舞台にして、駒込の菓子屋・照月堂を舞台に、京都で御所侍をしていた両親と兄を火事で失い、江戸の了然尼のもとに身を寄せながら、女性職人見習いの「なつめ」の歌詞職人修行を描く「江戸菓子舗照月堂」シリーズの第6弾。

前巻で菓子勝負での冷や汗ものの勝利を収めた照月堂のライバル氷川屋から引き抜きのアプローチを受けて、悩みながらも、照月堂へ残留することを決めた「なつめ」は再び菓子修行に励むのだが、行方不明の兄の「怪しげな」情報が出てきたり、氷川屋の商売の足元がすくわれる事態がおきたり、といった新展開があるのが第6巻「ほおずき灯し」である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 ほおずき灯し
第二話 松風
第三話 女郎花
第四話 喜久屋の餡

となっていて、まず第一話の「ほおずき灯し」は、照月堂の子どもの亀太郎のお話。彼は佐和先生というかなり厳しい武家上がりの女性師匠の経営する寺子屋に通っているのだが、そのお師匠さんが育てている「ほおずき」が見事な大ぶりの実を実らしている。それをこっそり見にいった亀次郎は、そこで同級生の悪ガキと遭遇し、彼ともみ合っているうちに、そのほおずきの実がもげてしまい・・・、といった展開。若干、説教臭い筋立てではあるのだが、まあ、安心して読める人情物ですね。

第二話の「松風」は、照月堂も菓子勝負での活躍や、茶人との商いの拡大などで、番頭の太助がヘトヘトになってしまっているため、彼の手助けをする者を雇い入れることから始まる。雇い入れたのは、太助の甥で「文太夫」といった能の役者をしていたのだが、師匠が将軍・綱吉の不興をかったためあちこちの大名屋敷や旗本屋敷から出入り禁止となり、弟子たちをリストラをして職にあぶれたため、叔父を頼ってきたもの。
真面目な能役者とあって、慇懃無礼な感じがしないでもないのだが、客あしらいをはうまく、さらに和歌や能学にも通じているので、ますます茶人などの通人づきあいが必要になる「照月堂」にはもってこいの人材かもしれませんが、詳細は原書で。
 
第三話の「女郎花」は舞台転じて、照月堂で昔勤めていて京都の老舗菓子屋で修行をしている「安吉」の話に移ります。相変わらず、その老舗・果林堂のもとの主である主果司・柚木長門にいいようにこき使われているわけだが、彼に石清水八幡宮に連れられていった時に聞いた、許されぬ恋のため、顔を焼いた女性と目を潰した男性の話と、その菓子屋・果林堂で鼻つまみ状態の常連客田丸外記の妻が、若い御所侍と不倫して出奔した話が、江戸に住む「了然尼」が顔を焼いた理由と「なつめ」の兄の失踪の話につながっていきます。
 
第四話は、照月堂のあくどいライバル・氷川屋が突然、経営難に陥る話。もともと菓子は金儲けの手段と割り切っていて、有名な菓子をつくることは熱心でも、職人のことは単なる道具のようにしか考えていなかった氷川屋の菓子職人の親方が日本橋の大店・一鶴堂に引き抜かれ、さらには、以前、照月堂からかすめとった「鯛焼き」をアイデア盗用だと避難する「高札」をだす「上総屋」というあやしげな業者もでてきて、まさに「水に落ちた犬」状態になります。ただ、この話は、なつめが恋をしている氷川屋の職人・菊蔵の身の振り方にも影響を及ぼすことになります。菊蔵は、照月堂の主人の腕を尊敬していて、できれば弟子入入りをしたいと思っていたのですが・・・、というところです。
 

【レビュアーからひと言】

 
この巻では、番頭の補助として雇った元・能役者の「文太夫」によって、照月堂が注文を受けている北村季吟が頼んだ菓子が、柳沢吉保への贈り物であることが判明するのですが、そうとわかるまでの候補者として、柳沢吉保と将軍の寵愛を争った側用人・牧野成貞や徳川吉宗の父親の紀州藩主・徳川光貞あたりの名前が出てきます。このころの高級和菓子は特別な進物用でもあったので、照月堂が風雨人や高級幕閣たちの客がついていくにつれ、「政争」の臭いも強くなってきます。次巻以降どうなるのか、なつめの身の回りも純粋な菓子修行だけではすまなくなってくるかもしれませんね。
 

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