本願寺降伏。新時代の織田の標的は「毛利」へ ー 宮下英樹「センゴク天正記 13」

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落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる宮下英樹の「センゴク」シリーズのSeason2「センゴク天正記」の第13巻。

朝井・朝倉滅亡、武田信玄・上杉謙信が斃死、そして播磨平定、本願寺降伏と、織田家を囲んでいた包囲網が崩れ、いよいよ、信長の「天下一統」が見え始めてきている状況下、次なる標的・毛利家との戦いに秀吉が向かっていくのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.120 検地と所領安堵
VOL.121 播磨国指出検地
VOL.122 羽柴家の道
VOL.123 衆中合議の上
VOL.124 才の発露
VOL.125 和して同ぜず
VOL.126 中国の覇者
VOL.127 京都御馬揃え
VOL.128 日本二つの弓矢境
VOL.129 両雄の布石

となっていて、前半は播磨平定後の様子や、本願寺が降った後の織田家の家中の変化が描かれます。

まず、播磨平定・本願寺降伏の後の織田家では、平定した播磨の検地が始まります。検地の目的は、土地に関する権益・利権を切るということなのですが、ここで石田三成が登場します。彼は検地を任されたセンゴクの手伝いをすることになるのですが

といった具合でセンゴクたちとは「気質の違い」を感じさせますね。さらに、村役人の年貢の横領を摘発するのですが、

といった具合で、彼の「能吏」ぶりがよくわかります。

これと並行して、織田家中の林佐渡守、安藤元就、そして、佐久間信盛という織田家きっての譜代の重臣が改易・追放となります。
前巻でも、守旧派的な言動をして、信長の不興を買いかけているのですが、信長が成り上がっていくまでを支えた旧臣から、領国も広がり、天下一統が目の前にきた時代を支える新しい部下たちへの勢力交代が、ここで決定的になったということですね。
佐久間信盛といえば、「退き佐久間」として有名な知将で、センゴクが秀吉軍から追放された時に面倒をみてくれたり、武田信玄に徳川家康が攻められた「三方ヶ原の戦」でともに窮地を息子の玄番とともに脱したり、センゴクにとってはかなり世話になっている武将ですね。本巻で、佐久間信盛が改易された時の「佐久間折檻状」が載っているのですが、かなり厳しいリストラ宣告。その内容は「持久戦固執の保守戦略」「家臣を雇用・加増しない内部留保策」「自己の正当性の吹聴」「直属の部下を抱えず、派遣の寄騎を酷使」などなど、散々な言われようです。

この佐久間信盛の処断を見ての対応が、明智光秀は

石田三成は

というあたりが世代差を現しているようです。

ここで、舞台は、毛利との一大決戦の場面へ移ります。この後、本能寺の変に至るまで、羽柴秀吉は、毛利との戦に明け暮れることとなるのですが、それに先立ち「毛利家」というものについて描かれるのが、この「センゴク」シリーズの特徴ですね。

その毛利家の体制は、国人連合体の”衆中”、つまり「国人衆の合議」で動く体制で、普通なら内部分裂を起こしやすいのだが、毛利の場合は、大内、尼子の圧迫、家老一族の専横、といった危機を迎えるたび、国人一揆体制→執権体制→奉行制→毛利両川体制へと変化し、その都度強大化しているのが特徴です。

で、その基となる「毛利元就」が毛利家を掌握するまでが描かれるのですが、ネタバレを少しすると、父・毛利弘元の急死、跡を継いだ兄・興元が大内義興について京都に出陣中に、家老の井上元盛によって追放されて上、兄も酒毒によって急死し、井上一族が我が物顔をし始める中で、じっくりと時機を待ち、「衆中合議」の上で、毛利の家督を継ぎ、獅子身中の虫である「井上一族」を誅殺し、大内を倒した陶、尼子を圧倒して、中国一円を支配することになります。まあ、天下はとれなかったとはいえ、家康に通じるものがありますね。

そして、舞台は、「鳥取の渇え殺し」へと展開します。この戦は、鳥取城を秀吉の大軍が取り囲んだ包囲戦を展開し、多くの将兵はが餓死する状態まで追い込んだ戦いなのですが、この鳥取城に毛利から吉川経家が覇権されての、「鳥取城攻め」前夜までが描かれるのですが、詳しくは原書で。

【レビュアーから一言】

天正九年の毛利家の年賀の席で、織田の侵攻を退けることを宣言するのですが、そこで「門徒兵(兵力)」「大量の銭(富)」「信仰(国の信頼)」という安定した政治に必要な三つのものを持っていた本願寺が信長に破れた理由を

と分析し、さらに

といった風に、本能寺を思わせるような予言をするのですが、このあたりは、実際の本能寺の変の時に、秀吉軍と和睦するところを見ると、この予言は思い起こされることはなかったのでしょうね。

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