戦国最強の軍・武田家、滅ぶ ー 宮下英樹「センゴク天正記 15」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる宮下英樹の「センゴク」シリーズのSeason2「センゴク天正記」の第15巻。

本願寺顕如に指導された伊勢長島の一向一揆や、武田勝頼に率いられた「常勝・武田軍」との戦いで幕を開けた「センゴク天正記」」シリーズもいよいよ最終巻。シリーズの最初では織田家を包囲して、信長を何度も危うい状態にまで追い込んだ、本願寺も降伏し、上杉謙信も急死、さらには西国の雄・毛利家に対しても、但馬・播磨、因幡を勢力圏内に取り込んで、天下一統ももうすぐか、と思わせる信長軍が宿敵・武田との最終決戦を繰り広げるのが本巻である。

【構成と注目ポイント】

構成は

VOL.140 新しき都
VOL.141 雑賀の選択
VOL.142 武田の将
VOL.143 国土防衛線
VOL.144 信濃の要 高遠城
VOL.145 最後の砦
VOL.146 四百五十年
VOL.147 天目山
VOL.148 大名の行く道
VOL.149 天下支配の儀

となっていて、まず、長篠の戦で、馬場美濃守、山形昌景などの重要な武将を討たれて敗走した武田軍のその後からスタート。

当方のイメージでは、長篠の合戦の敗戦後、ずるずると衰亡へ向かっていたように思っていたようですが、実は「検地による軍役強化」や「商工業支配の強化」によって近代化を進め、周囲へ領土も拡張していたようで、信長の脅威から遠ざかるために作らせたとさせる「新府城」も、新しい重臣・真田昌幸の意見

をいれた「武田信玄の国」からの脱却、というのが「センゴク天正記」の解釈ですね。それを象徴しているのが、天正十年の正月の年賀の幹部会議で、上杉への侵攻を主張する小山田信茂・穴山梅雪・山形昌満といった旧臣たちに対し、勝頼は

と新府城を中心に水陸路をおさえ、通行の活発化による富国策を主張するなど、価値観の対立が顕著になっています。
ここで、信長が決定権をもつ織田家なら、信長が言い出せばそれまでなのですが、中小の国人たちの連合体である「武田家」では、領内の「江尻」の既得権益が脅かされることを危惧する穴山梅雪が徳川に通じたり、「強兵」ではなく「富国」へ重心を移う政策に反発する小山田信茂、さらには、新府移転で木材関係の権益を失ったしまう木曽勢など、それぞれの思いや利益が絡み合うため、「検地」を強行できた織田家とは違って、あちこちに軋みがでてくています。ここらにも、古い体制を保持したまま急死してしまった「武田信玄」の負の要素が出てき始めてきるように思います。
このあたりの新旧の価値観の対立は、木曽義昌が謀反を決意する

といったシーンにあらわれているように思います。

で、武田と織田との最終決戦は、新府城完成による経済圏域の変化で先細りとなっていくことを懸念した、木曽義昌の謀反で開始します。この木曽勢の謀反を機会に、織田勢は徳川勢、北条勢と連合して、多方面から攻め入って来るのに対し、勝頼の方は自ら出陣して迎え撃とうとするのですが、信濃・大島城での城主・武田信廉逃亡、信濃・飯島での民衆の織田方への加勢、そして一族の筆頭・穴山梅雪の裏切りといった事態が次々とおき、武田家は内部から崩れていきます。さらには頼みの綱は勝頼の弟・仁科盛信の守る「高遠城」なのですがここも一日で陥落し、攻め落とした織田信忠自身が驚く事態です。

外側はがっちりとして見えた「武田家」が実は白蟻に食い荒らされるかのように、内部はいつの間にかスカスカになっていた、ということで、ここらは、歴史と実績を誇っている企業は、すべて「他残の石」としておくべきことであろうと思います。
ここから先の「武田家」は、裏切った穴山梅雪が勝頼勢を攻め立て、小山田信茂が自領の境界を閉ざすなど、「滅亡」に向かってひた走ります。最後のほうの勝頼の

といった言葉と、信長の

といった言葉の対比をどうとらえるかは、それぞれ読者のほうでお考えくださいね、

【レビュアーから一言】

武田と織田との大決戦が迫る中、紀州のほうでは、雑賀衆を率いてきた「土橋若太夫」と「雑賀孫市」の間で、諍いが起き、孫市が若太夫を殺したと史実ではなっているのですが、本書では、あくまでも二人の話し合いの末の結果となっています。それは、「織田と対抗して自治を守る」か「織田に味方して地域を富ませるか」といった、現在の「地域振興」を考える上でもよくでてくる課題なのですが、ここで「雑賀」がとったのが「孫市」の策で、これが凶とでたか吉とでたかはそれぞれの判断によるのでしょうが、どちらの策も

と「雑賀」がなんらかの形で残ることを考えた苦肉の選択であったのでしょう。

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