信長後の体制が固まり、長曾我部との戦開始 ー 宮下英樹「センゴク一統記 8・9」

落ち武者から国持大名へ、その後、戦で大敗北して改易。そこから復活して、徳川将軍家の相談役まで昇進した戦国一のジェットコースター人生をおくった「センゴク」こと「仙石秀久」の半生記が描かれる「センゴク」シリーズのSeason3「センゴク一統記」の第8巻と第9巻。

前巻までで、「本能寺の変」、その後の「山崎の合戦」を経て、秀吉が織田政権の中での発言力を大きく伸ばすこととなります。第8巻の前半部分では、その端緒となる清須会議での秀吉・勝家の対立が描かれ、第8巻後半と第9巻では、長曾我部元親の半生記が語られた後、センゴクが四国にわたって長曾我部元親と激突する前夜までが描かれます。
多くの戦国ものでは、畿内から東海までを制圧した織田軍が、毛利との戦いの前に抑えておこうとした四国で突然出現した怪物みたいな印象が多いのですが、民の平穏を維持するために、四国統一を目指した長曾我部にしてみれば、織田勢のほうこそ、畿内から四国へ攻め込んできた「蛮族」みたいなイメージだったのでは、と思える展開です。

【構成と注目ポイント】

第8巻の構成は

VOL.63 筆頭家老
VOL.64 切り札
VOL.65 清洲会議
VOL.66 旧懐の情
VOL.67 忠節の輩
VOL.68 疑惑
VOL.69 阿波の天狗
VOL.70 心得
VOL.71 夢想

となっていて、明智光秀を倒した後の織田政権の行く末を決める清須会議の開催されるところからスタート。

山崎の戦で光秀を倒した秀吉は、自らの戦功が第一と考えているので、この会議を仕切ることを目論むのですが、三法師の生母・鈴も神戸信孝も柴田勝家に信頼を置いているうえに、会議の席に到着した柴田勝家の迫力に押されっ放しになります。戦に勝ったのは秀吉なのですが、武将としての「格」の差がでた感じですね。

ここで、柴田勝家を支持する神戸信孝は「信長のシェフ」では、長男の信忠に代わって織田家を継ぐような覇気を示す人材として描かれているのですが、本シリーズでは山崎の戦の時といい、かなり不甲斐ない武将のようになってますね。

ここで、注目すべきは柴田勝家の政治ポリシー。彼のそれは

といった程度なので、とても信長没後の「日ノ本」を統べる「政治戦略」というものではありません。仮に、彼が天下をとっていたとしたら、大きな政略は立てられず、天下一統はかなり遅れたか、一統を成し遂げる人物は、最初から徳川家康あたりか、あるいは戦乱が続いた後、伊達政宗といったことになっていたかもしれませんね。

清須会議の前哨戦では、勝家に主導権をとられた感のある秀吉ですが、畿内を治めるための膨大な資料と事務仕事に怯えさせたり、

近江の主要な城を言ってに支配した柴田勝家の考えを、石田三成が粉砕して、長浜は柴田、佐和山は羽柴という形でイーブンに持ち込みます。

こういった官僚群を育ててきた秀吉と、武功だけに走っていた勝家との「政治力」「統治力」の差がはっきりしたように感じます。

そして、清須会議終了後、一応、信長亡き語の織田家の統治体制が固まったとはいえ、根底には「戦」の気分が漂っていて、秀吉は山崎城、勝家は北ノ庄城の増強にとりかかることになります。毛利勢などが注目する中、織田家の内訌始まる、といったところでしょうか。

一方、四国で長曾我部が動いたとの報により、秀吉の命で、センゴクは黒田官兵衛とともに、三好笑岩から彼が戦闘時に使っていた有名な「天狗頬」を譲り受け、四国へ渡ります。ここから、長曾我部元親との対決が始まります。
一代で、四国を統一した武将であるので、かなり猛々しい将かと思っていたのですが、22歳になってもまだ初陣をすませていない「姫和子」という呼称が象徴するように、ちょっとイメージが違ってますね。

続く第9巻の構成は

VOL.72 現世になき地図
VOL.73 姫若子の初陣
VOL.74 土佐一統
VOL.75 阿波水軍
VOL.76 酒天童子
VOL.77 風波の陣
VOL.78 約定違い
VOL.79 残り香
VOL.80 不動國行

となっていて、まずは前巻に続く、長曾我部元親の若いころの回想シーン。本山城を攻撃した元親の父・国親の戦死のところから始まります。
いままで出陣することなく、「姫若子」と侮蔑されていた元親がここで出陣を決意するが、家臣たちの目は冷たい。ここで元親は先陣を切ることを宣言。「生類の群れならば動きは読める」と断言し、その言葉通り、一番槍、二番槍と戦果をあげます。

これによって長曾我部の家臣一同が全員、心服することになるのですが、

他の大名家であれば、ここに至るまでに、弟とか縁戚とかが担がれて「お家騒動」がおきるのだが、そうはならなかったのは稀有な例だと思いますね。

この戦いでの勝利の後、元親は土佐一国の統一を目指して動くのだが、そのためには、応仁の乱の時に、京都から戦火を逃れてきて、土佐の有力国人衆の盟主的な地位にある「土佐一条家」を従える必要があるのですが、この家は、元親の祖父・兼序が周囲の勢力によって攻め滅ぼされた時、まだ幼かった元親の父・国親が一条家のもとに逃れた一命をとりとめ、一条家で元服して家を再興したという歴史があって、いわば長曾我部氏にとって恩人の家です。いかに一族の内訌があるとはいえ、あくどい所業であるのは間違いないところですね。

この一条家を切り従えて、四国統一に乗り出すところで回想シーンが終わって、舞台は、センゴクたちが四国へ渡ったところへ転じます。
センゴクたちは四国内での味方を増やすために、三好家の家臣・森村吉に出会って、彼の息子たちを家臣として抱えたり、

後の九州攻めとの時に友軍となる「十河存保」へ接触を試みたりするのですが、胆力もある上に謀将でもある、長曾我部元親と戦うわけですから、センゴクにとってかなり苦しい戦いになることが間違いないですね。
しかも、長宗我部が三好の残党を刺激して、織田勢を四国に引き込んだのは

といった企みがかくれているようです。うーむ流石、当代一の智将でありますな。

一方、羽柴と柴田が水面下で火花を散らしている畿内・北陸では、勝家の養子の間で功名争いが起こっています。それにもかかわらず、勝家のほうは織田家筆頭家老として、天下を治める気満々で、当方が見るに、秀吉への警戒心が足りないように思えてなりません。

【レビュアーからひと言】

第9巻の終盤のところで、お市の娘・茶々が、京都の街へ出かけ、秀吉の養子となっている織田信長の四男坊・秀勝と出会います。

秀勝は、この当時、羽柴の家を継ぐものと思われているので、仮に、茶々と秀勝が結ばれることとなっていれば、戦国時代の終わりの歴史も少々様相を異にしていたかもしれません。茶々の淡い初恋の物語は、原書でお楽しみを。

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