AIの時代の「知的生産」のコツを伝授しよう ー 佐藤優「調べる技術、書く技術」

外務省のロシア担当の官僚を経て、数奇な経験をしながら、現在、国際情勢をはじめとして、数多くのジャンルにわたる執筆活動や講演活動を展開している、今の日本の名うての論客・佐藤優氏が「知的生産の技術」を披歴したのが本書『佐藤優「調べる技術、書く技術 誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意」(SB新書)』である。

本書によれば、筆者の創作活動は

私は、毎月平均2冊のペースで本を出し、抱えるコラムや連載などの締め切りの数はひと月あたり約90になる。
ひと月に書く原稿の分量は、平均して1200ページ、字数にして約50万字にもなる。

ということなんで、とても常人とは比較できない大量のアウトプットなのだが、インプット・アウトプットの「巨人」の手法を少しでも取り入れることができたら、一般のビジネスパーソンの知的活動のレベルが数段アップすることは間違いなく、今より少しでも上向きを目ビジネスパーソンはおさえておきたい一冊である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 情報過多な時代の調べる技術、書く技術
第2章 【インプット】情報を「読む力」を高める
第3章 【アウトプット】読んだ知識を表現につなげるスキル
第4章 調べる技術、書く技術の「インフラ整備」のすすめ

となっていて、まずおさえておかないといけないのは、

前コブに近づくためには、AIを競争相手としない、真に人間的なスキル、いわば人間だけが理解できる「付加価値」をつける素養を磨くことである。
知的生産術とは、AIには到底できない「知的な付加価値」をつける素養の磨き方と言い換えてもいい

ということ。

以前であれば、同じ「人類」同士の中での競争であったのが、将来的には、かつては「知的生産」の一一つであった、情報の整理であるとか分析の一部分といったことがAIに代替されることが予測されるため、「知的生産の技術」そのものが変化を迫られていて

前コブに近づくためには、AIを競争相手としない、真に人間的なスキル、いわば人間だけが理解できる「付加価値」をつける素養を磨くことである。
知的生産術とは、AIには到底できない「知的な付加価値」をつける素養の磨き方と言い換えてもいい

というところであろう。そして、」こういうところだけを読むとインプットの方法や情報整理の方法も、なにか特別な方法を取り入れないといけないような気がしてくるのだが、実は

インプットとは具体的にどのような作業か。
まず基本は「読むこと」、そして第二に「聞くこと」だ。
職業によっては触れることや嗅ぐことなども重要な情報源となるだろうが、ベースは「読む」、そして「聞く」の2つと考えていい。

であったり、

私自身が実践している整理の技法を説明していこう。
私がすすめる情報整理法は、「手書き」が基本である。使うノートは「1冊」だけだ。スケジュールをはじめ、今日やるべき仕事のリスト、日誌、執筆のためのアイデア、さらには読んだ本の抜粋や、ロシア語の練習問題まであらゆることを記している。

といった形で、アナログな部分も含みながら、基本的なところには忠実であるのが印象的である。
さらには、アウトプットについても

自分がこなせる仕事量を把握したら、行きあたりばったりで仕事をするのではなく、自分の能率を踏まえた上で仕事の計画を立てるようにする。
(略)
今の能力以上のことは自分に課さないことが重要だ

といった感じで、こうした知的生産のノウハウ本では、「進軍ラッパ」だけが高らかに響くことがよくあるのだが、そうしたことをきちんと抑制しているのが筆者らしいところであろう。

そして、具体的なノウハウについては、

新聞は最低でも2紙購読したいところだが、どうしても時間的に難しい場合は、『新聞ダイジェスト』(新聞ダイジェスト社)の購読をすすめる

とか、

ネット上にリリースされている情報は無限大ともいえ、書籍以上に、「何を読むか」を選別する裏側には、数多の「何を読まないか」の取捨選択がある。
では一何を読まないか」といえば、ネットニュースである。

であるとか、情報を読み解く場合の「おススメ本」として、高校の日本史A、世界史A、政治経済の教科書(筆者は日本史、世界史もBではなくてAを推薦しているのだが、その理由は原書でご確認を)や「新聞ダイジェスト」の活用法など、細かな部分についてもノウハウを伝授してくれているので、ここから先は原書のほうで確かめてくださいな。

【レビュアーからひと言】

こういう知的生産本の場合、とかく情報を整理したり、入手したりという時の「時間の速さ」を競うことが多いだが、本書の場合、例えば本を読む場合でも、一冊の本を読めば、その都度、ノートに抜き書きをすることを薦めていて

まず、本の内容を自分の言葉に置き換えたりせず、そのまま抜き書きをする。
基本的には「自分がとくに重要だと思った箇所」、これに加えて1~2箇所、「現時点では理解できないが、重要だと思われるところ」も抜き書きしておく。
(略)
同時に、抜き書きごとに自分のコメントも記していく。
コメントというと難しく聞こえるかもしれないが、「わかつた」「わからない」といった「判断」でかまわない。

としたうえで「当然、1冊にかける時間が多くなり、読める冊数は少なくなる。」とし「lヵ月に10冊の本を読み流して「わかつたつもり」になるのと、1冊についてしっかり読書ノートをとるのとでは、後者のほうが、はるかに知的生産力は高まる。」としているところは、とかく速度や効率性が重視される中で、印象に残る言葉である。「急がば回れ」というのは地籍生産力を高める場合にも言えることかもしれないですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました