連続殺人の陰に「鎮魂歌」が隠されている ー 鳴神響一「脳科学捜査官 真田夏希 3 イミテーションホワイト」

医師免許も持つ、高学歴・美貌ながら「ふつうの結婚」を望んで婚活活動を続ける神奈川県警科学捜査研究所所属の腕利きプロファイラー・真田夏希の活躍を描く「脳科学捜査官」シリーズの第3巻。

前巻までで、経済不況から不幸な職業人生となった。「失われた世代」の爆弾魔や、時代の波に乗り切れず転落してしまったかつての栄光が忘れられない「バブル世代」の連続殺人犯を、爆弾処理犬・アリシアや所轄の出世から遅れた熱血刑事・加藤たちのアシストで次々と検挙してきた「夏希」なんであるが、今回は、現場に打ち上げ花火が仕掛けられている「見せる」を意識した連続殺人事件に挑むこととなる。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 夏希の休暇
第二章 本牧緑地
第三章 仏法時跡
第四章 銀の十字架

となっていて、故郷・函館からの同級生の友人で横浜市役所に勤務している「希美」という女性と伊豆へ合コンデートにきているシーンから開始。「ふつうの結婚」を夢見ている夏希は、婚活活動に頑張っている様子なのだが、今回のお相手の「結城」という人物も、結構イイ線まで行きながら、昼食で寄ったレストランで、料理のサーブの順番を間違えたことを店の従業員の女性に厳しく当たったことから

心理学を持ち出すほどのことではないのだが、店の従業員などにつらく当たる男は避けるべきという法則は存在する。
そのときの態度は、結婚してからそのまま自分への態度となることが多いからである。
もっともこうした店の女性に、あまりになれなれしくベタベタする男は、結婚してからもほかの女の子に色目を使う恐れはあるのだ。

ということで「OUT」になる。冒頭で夏希に振られる人物は物語の後半部分で、微妙な役回りを演じることになるので、今回もチェックしておきましょう。

事件のほうは、本牧ふ頭の緑地で花火を使った爆破が起き、その近くで、セキュリティ・クラウドシステム運営会社の社員・藤堂が、絞殺死体で発見される。そして、この殺人を犯人と名乗る人物から、SNSサイトに犯行予告のメッセージが残されていた、ということで、「かもめ★百合」こと、われらが真田夏希が、休暇中の伊豆から急遽呼び出された、という経過ですね。
もっとも、伊豆から捜査本部が設置された「江の島署」へ行くときの電車の車内で、過呼吸症候群に陥った女子高生を助けていて、これが後で捜査の大きな援助になるので、「情けは人のためならず」を地で行くような設定ではあります。

さらに、この被害者の「藤堂」という人物、殺害された時に高性能のカメラで撮影をしていたということで、盗撮犯では、と疑いもかかるのですが、元公安調査庁の職員であったことも判明し、事態は極秘調査で撮影をしていた元捜査員を殺した「テロ事件では」といった様相となり、今回も警察庁理事官の「織田」が捜査本部へ出張ってくることとなります。

で、第一の犯行宣言「朝四時の本牧緑地で花火を上げます。悲しみを真っ白に消すため」という投稿から始まった、犯人と「かもめ★百合」とのやりとりなのだが、今回は、犯人のほうがごく短い感想的な投稿をすることも多く、プロファイルの形成に手間取っているうちに「忘れ去られた神殿で花火を上げます。悲しみを真っ白に消すため」という第二の犯行予告がされ、市の文化財指定にもなっている「仏法寺跡」で大学の教員が撲殺されるという第二の事件が起きます。この現場にも「銀の十字架」が残されていて、これが事件のヒントになるかも、といった展開です。

ただ、の第一の事件の捜査や第二の事件が勃発したあたりで、SNSのやりとりから、犯人のプロファイルを徐々につくっていく「夏希」と、事件をテロ事件と考え、犯人の残す言葉がフェイクではと主張する織田との間で路線対立が鮮明になってきて、捜査が「とん挫するかも」といった事態になります。
これを救ったのが、前述の夏希が、伊豆から捜査本部のある江の島署へ出向くときに出会った女子高生で、彼女の証言で、事件の謎は、テロ事件とは全く違う方向から解きほぐされていくのですが、ネタバレ的には、ストレスを抱えた男性たちによる「ネットいじめ」というところで、ここから先の詳細は、原書のほうで。

【レビュアーからひと言】

今回の話ネタになりそうな脳科学Tipsは

感情移入しやすいタイプの「共感人間」はソフトでリリカルな音楽を好む。一方で論理的なものの考え方をする「体系人間」は激しい音楽を好む傾向がある

ということで、面接とかで「趣味は音楽鑑賞」と答えた時に、「どんな音楽が好きですか」と質問されたら、感情的か論理的かのタイプ診断をされているのかも、とチェックしておいたほうがいいかもしれません。

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