「謝ればいいってもんじゃない」を科学する ー 川合伸幸「怒りを鎮める うまく謝る」

不祥事が起きると関係者や会社の上層部がそろって会見して謝罪をするのだが、おなじような言葉を喋っていても、「しょうがなかったのね」と思えるものから、「なんじゃ、こりゃ」と思うものまで千差万別である。

どうやら、同じように頭を下げて謝っても、謝罪として受け取ってもらえるものとそうでないものとがあるようで、そのメカニズムについて分析されているのが本書『川合伸幸「怒りを鎮める うまく謝る(講談社現代新書)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一章 怒りのメカニズム
第二章 関係の修復ー怒った人は相手に謝ってほしいのではない
第三章 効果的な謝罪
第四章 怒りの抑え方
第五章 仕返しと罰
第六章 赦し

となっていて、最初のところで、

怒りをなだめるプロの方は、コールセンターに勤務し、電話の向こうで怒鳴り声を上げる人びとから年間二〇〇〇億円もの債権の回収に成功したそうですが、その方が経験から導いた極意とは、「徹底的によりそって話を聞く」「怒りの矛先をそらす」「相手以上に大げさに怒ってみせる」「やさしい、などとほめる」というものでした

ということで、相手の怒りを鎮めることが大変上手な人がいるのは確かで、そうした人の技術がそっくりマネできればいいのだが、なかなかそうはうまくいかないのが世の常というもの。

というのも、

この実験のように簡単に謝罪すれば相手は不快なままですが、しかし攻撃性が抑制されているので、それ以上こちらに文句を言ったり攻撃することはないのです。

というように、謝罪することで「すべて解決」というわけにはいかないようで、特にカップルの場合は、「さっさと謝って、話を終わらせる」には決してやってはいけないことのようなので、夫婦喧嘩などの際は気を付けてくださいね。

ではどうしたら、というところで本書の、ヴァージニア大学での実験では

おもしろいことに、補償の申し出は自発的な謝罪よりも高く評価されました。つまり謝られるよりは、元に戻してはしいと感じていたのです。

といったことであったり、

・ケンカを収めようとして安易に謝らないで、お互いに怒りが鎮まるまで待つこと
・自分が正しいとの思い込みを捨てること
・相手の立場に立って考えてみると、他の人はどう感じると思っているかを話してみること
・相手が感情をぶつけてくることを攻撃だと考えないこと。
・ 自分は態度を変える意思があることを示すこと

が大事とされているなど、過去の実験に基づく対処例が上がっているので、おさえておくとよいですね。

このほか、頑として謝ろうとしない人の心理構造や、企業スキャンダルの時の謝り方の心理学的分析など、ビジネスで直面する課題の解決の糸口になる研究成果も出てくるのだが、詳しくは原書のほうで。

【レビュアーからひと言】

表題だけみると本書は、謝罪のテクニックのようなものを想定してしまうのだが。そうではなく、怒ることのメカニズム、謝ることの効果などについての学術的な分析、紹介が多くを占めているので、即効性を求める読者にはちょっと不満かもしれない。ただ、こうしたメカニズムを理解して、テクニカルなものを身に付けると、その効果は倍増する場合があるので、ここはきちんと基礎的知識をおさえておくことをおススメします。

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