新米女性巡査、「異形の面」をつけた猟奇殺人の謎に挑む ー 内藤了「MASK 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」

人が集まるところは、様々な「気」が集まるので多少の怪異もまぎれこんでくるというのは、古今東西を問わないようで、ホテルとか宿屋、あるいは空港や駅というところを舞台にした小説は数多いのだが、その中でも鉄道の「駅」というのは、乗降客や飲食店の客たちによってつくられる「人間模様」は比肩するものはほかにないのではなかろうか。

その「駅」の中でも、乗降客の多さと歴史の古さといった総合力では、日本の中では「東京駅」に勝てるところはないといっていいのではなかろうか。そんな東京駅の近くにある「交番」を舞台にしてスタートするミステリーが「「東京駅おもてうら交番」シリーズである。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 東京駅おもて交番
第二章 少年全裸箱詰め事件
第三章 東京駅うら交番
第四章 駆け出し刑事 平野ジンゾウ
第五章 異形の麺
第六章 鬼面に魂を宿す術
第七章 MASK
エピローグ

となっていて、まずはプロローグのところで、銭湯がえりの少年が誘拐され、殺されてバラバラにされ水槽に保存されるという猟奇事件からスタート。この事件は、本編のほうとは直接の関係はないのだが、本編の事件のリーディングケース的な位置づけなので、グロいところはあるが雰囲気を掴んでおきましょう。

本編のほうは、「東京おもて交番」に研修配属された、長野県出身で警視庁のはいったばかりの「堀北恵平」という警官が東京駅周辺の巡回をしているとことから開幕。「恵平」という名前で「けっぺい」という読み方をするのだが、立派な「女性」である。そして、彼女は地理不案内な「東京駅」の地理を覚えるため、毎日巡回(新米なので一人で降板は任せてもらえない事情もあるのだが)していて、駅周辺に住んでいるホームレスの「メリーさん」、靴磨きの「ペイさん」や、彼女が夕食をとる呉服橋ガード下の焼き鳥屋「ダミちゃん」の大将のダミさんといった面々に助けながら事件を解決していく、といった設定である。

事件のほうは、東京駅のコインロッカーの中から、白木の箱に入れられた少年の死体が発見される。彼は全裸の状態で梱包され、その顔には「波形に歪んだ眉間の皺。カッと見開いた大きな眼。胡座をかいた鷲鼻に、イという形に開けた口、そして牙」といった古い「異形」の「面」をつけられていた、という猟奇度全開の事件である。

ただ、人がたくさん行き交う中、どうやって不審がられずに大きな「白木の箱」を持ち込んだか、というところはなかなか難物で、捜査が難航するなか、新米巡査として下働きをしていた「恵平」は、「だみチャン」での遅い夕食後、寮への帰り道、風呂敷包みの落としもを見つけ、近くにある「入り口ドアは白く塗られた木製で、その上にアーチ型のひさしがあって、屋根は銅葺き、交番の名前は彫金」という「東京駅うら交番」に届ける。そこに勤務していた「柏村」という老巡査に少年の箱詰め事件のことを話し、彼からプロローグの事件について聞かされる。そして、「殺人事件を追うことは闇を除くことに等しい。だからこそ、人間のよいところを見る目がないとやってゆけない、きみがどっちだ」と問われる。

柏村巡査に「人間のよいところを見る目を、養いたい」と答えた恵平は、その後の捜査で、被害者が疾走した神奈川県の「由比ヶ浜」の近くで、聞き込みを続けるうち、「鬼瓦」を焼く「鬼師」の窯元に行きあたりのだが・・・、といった展開で、ここから先は原書のほうでお楽しみください。少年に被されていた「異形の面」以外にも、少年にはマグダラにマリアがイエスに塗ったといわれる「ナルドの香油」が塗られていた、といったふうに「オカルト色」満載ではあるのですが、正当なミステリーなので、食わず嫌いをせずに最後までどうぞ。

【レビュアーから一言】

本書の魅力は、猟奇犯罪に心折られそうになりながら、周囲の援助や被害者の無念を晴らすために、懸命に捜査に向かっていく「恵平」の姿とあわせて、「東京駅」という新しいものと古いものが不思議な調和で存在している「駅」のもつ魅力であろう。
そこのところは、「恵平」が常連となっている「ダミちゃん」の雰囲気によく出ていて、

ガード下の歩道には、ビールケースの椅子や一斗缶のテーブルがメニュー看板の隙間に並べてある。焼鳥を焼く煙がもうもうと立ち、アルコールと醤油ダレの混じった空気が漂う。
ダミちゃんの焼き鳥はそれも絶品だが、恵平はここのレタス巻サラダが好物だった。山盛りのシャキシャキレタスにガーリック味噌マヨネース味の鶏そぼろが絶妙にマッチして四二〇円。ひと皿でビール二杯はいける代物だ。

といった感じにはおもわず、GoogleMapで、その場所を探したくなるぐらいですね。

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