バストマニアの「猟奇殺人」に隠された偽装工作を暴け ー 内藤了「COVER 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」

東京駅の周辺に暮らす、靴磨きの「ぺいさん」、焼き鳥屋の主人「ダミさん」、老舗・餅菓子屋の女将で東京駅のホームレス「メリーさん」、そして幻の「東京駅うら交番」に勤務する柏村巡査に助けられながら猟奇事件に向かっていく、堀北恵平(ほりきたけっぺー)という新米女性巡査の活躍を描く「東京駅おもてうら交番」シリーズの第二弾が、『内藤了「COVER 東京駅おもてうら交番 堀北恵平」(角川ホラー文庫)』。

第一弾の「MASK」では新規採用の研修で「東京駅おもて交番」で地域警察の仕事の見習いをやっていたのだが、それも無事終わり、今度は刑事課研修で「鑑識」の見習い期間中に、再び猟奇殺人事件に出くわすことになる。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 刑事課研修
第二章 AV女優猟奇的殺人事件
第三章 Genial area マーケット
第四章 東京駅うら交番
第五章 バストマニア
第六章 第三の殺人
第七章 名探偵メリーさん
第八章 COVER
エピローグ

となっていて、前巻同様、本編のリーディングストーリーとなるのは、「うら交番」勤務の柏敏夫刑事が亀戸警察署に勤務中に遭遇した殺人事件で、四十過ぎのダメ男と一九才の娘が歳の離れた恋愛の末に、男が娘を刺殺。そして、頭を切り取って皮を剥いだうえに、その頭皮をかぶって自殺するという猟奇事件のエピソードが語られる。この男の犯行動機が、本編の事件のキーともなるので、前巻同様、陰惨な事件ながらきちんとおさえておきましょう。

本編は「恵平」が鑑識の研修を受けているところから今巻は開幕。瞬間接着剤に使われている成分を使って、今まで指紋はとれないとされていた布製品から指紋をとる手法を編み出した女性鑑識官の話が、目新しいですね。そして、ビルの谷間の60cmぐらの隙間に身を投げた、ホームレスの老人の死体をひきあげと鑑識をする話が挿入されるのだが、この老人の話は本編の事件とは直接関係はないようですが、その日の勤務が終わって、恵平が「ダミちゃん」で食事をとっている最中に店に訪れる男のことは頭の片隅においておいたほうが良いですね。

で、事件のほうはAVに出演している女優・進藤玲子が、撮影現場のラブホテルで、絞殺されたうえ、乳房のところを切り取られて持ち去られる、という猟奇殺人が第一の事件。彼女は、女優志望で演技スクールに通っている介護施設に勤務する看護士さんで、スクールの授業料や衣装、オーディションの費用などを捻出するためAVに出演していた、という設定ですね。

で、捜査を続けるうち、この女性の胸にはシジミチョウの刺青がされていて、胸の形をシリコンで型取りした模型が、バストフェチの男たちの人気になっていたことや、彼女が殺されたラブホテルの排水口から毛染め薬・ヘナの痕跡も発見されて、ということで犯人は白髪のある中年以上のバストに異常な執着をもつ人物という線での捜査が進められる。

ここで、第二の事件として、通販会社のオペレーターをしている独身OLの女性が殺され、この女子江も胸が切り取られている状態で発見される。この女性の趣味は韓流スターのおっかけと山歩きで、AV出演もなく、女優志願でもなく、第一の被害者との共通点はまったくない。
さらに、進藤玲子のバストのシリコン模型を作成して販売していたアダルトショップが放火され、経営者が殺されるという第三の事件が起きる。
さて、それぞれの事件に共通するものは、そして犯人の狙いは・・と展開し、結末に向かうところで、「恵平」に犯人の魔の手が伸びてくることになるのだが、詳細は原書ののほうで。

この巻も「猟奇」仕立てではあるのですが、実はオカルトものではなく、きちんとしたミステリーですので念のため。

【レビュアーから一言】

どうやら「東京駅うらまち交番」があり、ホームレスのメリーさんがはじめの旦那さんと仲良く暮らしていた、昭和35年頃の東京駅につながっているというのが本書の設定なのだが、、この東京駅で70年以上靴磨きをしている「ペイさん」が

ごくたまにだけど、そういうことはあるんだよ。この駅はここにずっと立っているだろう?だからさ、駅のどこかがどこかにつながっていても、不思議じゃない気がするもんね、一日中、通る人の足元ばっかり見てるとさ、やっぱり時々、昔の足の人が通るんだよ。

というあたりを読むと、「古いもの」には魂が宿る、という水木しげるさんの妖怪ものが思い起こされますね。ただ、今シリーズの場合、うらまち交番の柏木刑事の「思い」がおおきな影響を及ぼしているようですが、次巻以降でそのあたりが明らかになるんでしょうか。

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