「テロリスト・アゲハ、再臨」と思わせて実は・・ ー 吉川英梨「蝶の帰還」

「昨今、急増するストーカー犯罪やDV被害に苦しむ女性を救うため」という名目で警視庁に新設されてはいるのだが、実は女性が絡む事件であればどんなものでも首を突っ込むという「女性犯罪捜査班」を舞台に、「ハラマキ」こと「原麻希」警部補が活躍する、『警視庁「女性犯罪」捜査班 警部補・原麻希』シリーズの第5弾。

今巻は、原麻希のデビューの秘匿犯罪捜査班当時の最初の犯人のテロリスト・アゲハが再び日本へ再臨。原麻希・則夫夫妻と、麻希の元恋人の広田管理官夫妻と彼らの子どもを巻き込んだ事件の顛末。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
チャプター1 下北沢劇団女優殺人死体遺棄事件
チャプター2 目黒区祐天寺公安刑事襲撃事件
チャプター3 ロクチョウ
チャプター4 公安刑事結婚披露宴爆破テロ事件
チャプター5 警視庁警察官誘拐事件
Intermission 1/2

Intermission 2/2
チャプター6 アゲハ模倣事件秘匿捜査本部誕生
チャプター7 鍵を握る女たち
チャプター8 三丁拳銃
チャプター9 蝶の迷宮
チャプター10 革命の子

の文庫本は「上下二巻」仕立てで、まずは、麻希の元恋人で警視庁の刑事部の管理官に異動した広田管理官が、愛娘の舞香や芹香にベタベタのようすからスタートする。もともと公安部に所属していたのだが、娘ができ家庭への愛着がまして刑事部に移った、という設定なのだが、彼の娘が、「秘匿事件捜査官」シリーズの第一作のように「アゲハ」を名乗る犯人に誘拐されることが主軸の事件と平行する伏線となる。

さて今回の連続事件は、下北沢のアパート跡地で女性が打撃を受け窒息死したような状態で死んでいるのを発見されるというもの。このアパート跡地は以前の「アゲハ」の事件の現場となったアパートが取り壊された跡で、しかも、その時と同じようなアゲハのメッセージが届くといったところから、「アゲハ事件」の再来か、という感じで開幕。

さらに続いて、公安部に属する警察官・槇村(彼はアゲハ事件のときに広田管理官の部下だった人ですね)が、彼の情報提供者とのやりとりの最中に襲撃されて怪我をしたり、といった小物事件の後、広田管理官の娘・舞香がベビーシッターとともに誘拐される。娘の行方を必死で探す彼のもとに届いたのは、「アゲハ」からの、元部下の岩本の結婚式で、その会場にしかけた爆弾のスイッチをいれて、出席している公安部の警察官たちを爆死させろ、という脅迫だった・・・、という展開である。

まあ、この脅迫は、アゲハから仕掛けられた「フェイク」であったのだが、爆破のスイッチを押してしまった広田の信用を下げ、その上で、麻希の娘・菜月を再び誘拐して、麻希と広田を呼び寄せる。そこで、アゲハこと戸倉加奈子は「これは自分のやった犯行ではない」と言うのだが・・ということで、アゲハに対する不信の念をいだきながら、麻希と広田は真犯人のあぶり出しと、誘拐された舞香の救出を目指す。
そして、彼らがたどり着いた真犯人は実は味方と思っていた意外な人物であった・・、ということで詳細は原書のほうで。

少しネタバレすると、今回の事件のキーは、公安部から刑事部に転籍して「根無し草」と呼ばれている「広田管理官」の存在で、この「ハラマキ」シリーズのあちこちで描かれる警察内部の縦割り構造。しかも、秘密捜査を基本とする「公安」から抜けることは仲間に対する「裏切り行為」と認識されるようで、秘密行動に携わると、現代組織も「忍び」と同じ構造になるようであります。

【レビュアーから一言】

今巻では、「ハラマキ」シリーズのデビュー事件である「アゲハ事件」で主犯となる戸倉加奈子が逮捕されてからの「その後」が描かれていて、それには、麻希の配偶者の「則夫」が深く関与しているところが描かれます。シリーズの中では、麻希の尻の下に敷かれている、温厚な引退警察官風の様子の描かれる彼の現役時代の「鋭利」なところがみえるので、ここもお見逃しなく。おまけに、彼と加奈子の事件後の出来事に、作者が読者を迷路に誘い込む仕掛けを施しているので、まあ、うまく騙されてください。

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