手代や妖の手助けで「若旦那」は成長するか? ー 畠中 恵「ぬしさまへ しゃばけ2」(新潮文庫)

「しゃばけ」でデビューした廻船問屋兼薬種問屋長崎屋の若旦那「一太郎」と手代の「佐助」と「仁吉」、このほかに妖の「鳴家」や「屏風のぞき」たちが活躍する。江戸ものファンタジー「しゃばけ」シリーズの第2弾が本書「ぬしさまへ」

【収録と注目ポイント】

収録は

「ぬしさまへ」
「栄吉の菓子」
「空のビードロ」
「四布の布団」
「仁吉の思い人」
「虹を見しこと」

の6編で、いずれも、独立した短編なのだが、1作目の「しゃばけ」のいくつかの場面の補遺とも思える短編もある。

全体を通じてキャストやそれぞれの役回りは前作と同じ。若旦那は相変わらず病弱で、ちょっと外に出たかと思うとすぐ熱を出して寝込んでしまうし、犬神と白沢の変化である手代の佐吉と仁吉は一太郎に大甘だし、妖たちは、一太郎のまわりをうろちょろしている。ただ、前作とちょっとかわってきたのかなと思うのが、一太郎の毎夜の菓子や酒の振る舞いになついたのか、鳴家や屏風のぞきが喜々として一太郎の事件捜査を手伝うようになってきていることと、一太郎が大店長崎屋の将来の大旦那としての自覚をもたなきゃ、と思い始めていること。
特に、後段の一太郎の変化の兆しは、次の作品の伏線ともなっていくのだろうと思わせる。

さて、この本の作品について、ネタバレにならない程度にレビューをしよう。

「ぬしさまへ」は苦味走ったイケメンの仁吉の袂に、付け文(ラブレターですよ。念のため)らしきものが入っていたことから始まる。”らしき”ものと書いたのは、その手紙の字が付け文らしからぬ、とんでもない金釘流で、なかなか読めないという代物。いったいこれはなんじゃと皆で思案中に、どうもこの付け文の出し主らしい、小間物屋天野屋の一人娘が殺される、という事件がおきる。さて犯人は・・・、というもの。

色恋のもつれであることは間違いないのだが、底意地の悪い女は怖いな、といったところ

「栄吉の菓子」は一太郎の幼馴染で、腕の”悪い”菓子屋の跡取り、栄吉の菓子を食べて隠居が死んでしまうところから始まる。いくら腕がわるくても菓子で人は死なないと思うのだが、どうやら栄吉の菓子は、死ぬほど”マズイ”らしい。筋立ては、隠居殺しにされそうになる栄吉を助けるために一太郎や手代、妖たちが走り回るお話。栄吉が一太郎の店に転がり込んでいるので妖たちにはないかと不自由で、早く栄吉を追い出すために力を尽くしている、といったこともあるらしい。

最後の「植えられた草木を、美しい花と見るか、人を殺す毒と思うか」といったあたりはヒント。

「空のビードロ」。”空”は”くう”でなくて”そら”の方。そらいろのガラスの根付。
話の中身は、一太郎の腹違いの兄の松之助が、東屋という桶屋の奉公していたときの話。「しゃばけ」で松之助の奉公先あたりが火事になった後、長崎屋に勤めを変えることになるから、その前あたりの話。「しゃばけ」では火事も付喪神になりそこなった墨壺の仕業になっているから、このあたりは「しゃばけ」の補遺ともいえる。
話の中心は、松之助の店の近くでおきる犬猫殺しの真相と、奉公先のお嬢さんの底意地。

「四布(よの)の布団」は一太郎のために新調した布団から夜中になると若い女の泣き声がする。なぜだ、というところから謎解きが始まる。「四布」は布団の幅のことだって。(勉強させていただきました。)
仕掛けは、非業の死をとげた人の魂魄が残って泣いたり話をしたりという「鳥取の布団」(鳥取の宿屋で、その布団を被って寝ると、夜、「お前寒かろ」「兄さんこそ寒かろ」と兄弟が話しをする声が聞こえる)のようなものかな、と思ったが、少し柔らかくなっていて安心。

途中で繰綿問屋の田原屋の主人が青筋立てて奉公人を怒るところは、偽装マンション事件でTVによくでてくる社長さんの怒号を思いおこしてしまった。

「仁吉の思い人」は手代、仁吉が惚れて、長年お仕えした女性(といっていいのかな?妖なのだが)のお話。若旦那が暑気あたりで半死半生になっており薬湯を飲ませるためにしょうがなくやった思い出話。相手の名は。吉野(よしの)という名前(江戸時代になったらお吉さんとなっている)の女性。ところが、とんでもなく長生きの大妖の恋愛もの。話は平安時代から始まって、江戸時代まで続く、なんとも息の長いお話。乱暴にまとめると、仁吉がいくら想いを募らせても、お吉御嬢さんは、鈴君という人間の男が好きでふりむいてくれませんでした・・・ということなのだが、鈴君の生まれ変わり譚やらが絡んでくるので、ちょっとせつない。

最後のところで、一太郎にかかわりがでてくるところで「ほーっ」と感心。

最後の短編「虹を見しこと」は、ある日、無断外出して帰ってくると、いつもまわりでわちゃわちゃしている妖の姿が見えなくなっている。手代たちは、いつものような過保護でなく、なにかしらよそよそしい。これは一体・・・、というお話。
誰かの夢の中に入りこんでしまった、のでは一太郎が疑ってあれこれかぎ回るあたりから、「虹を見しこと」という表題と虹は大ハマグリが見ている夢だという話が結びつく。

【レビュアーから一言】

坂田靖子さんのコミック「珍見異聞」(珍見異聞―芋の葉に聴いた咄、珍見異聞 (2))の中に、御殿暮らしの夢を見て、目が覚めたところで、夢がかなうことを予測させるような公達と出会う、漁師の娘の話があったことをふいに思い出す。
 
 親の看病に帰省している女中のことがきっかけで、一太郎が、

私は・・・私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように

と自省を始めるあた り、次の作品での新展開を期待させる終わりかたである。

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