美味しい「洋食」は日本人のソウルフード ー 今柊二「洋食ウキウキ」

ビジネスマンや学生の皆々の生活を支えている「日本各地の定食」について、おそらくは日本で一番詳しい「定食研究家」(?)である筆者が、もうひとつ日本人の心の「故郷」である「洋食」について著したのが本書『今柊二「洋食ウキウキ」(中公新書ラクレ)』。

【構成と注目ポイント】

第1章 「洋食の場」発展史と「ウキウキ」分析
 1 「洋食の場」発展史
 2 世代別洋食「ウキウキ」感の研究
第2章 メニューの研究
 1 メインの研究
 2 アラカルトの研究
第3章 洋食「聖地」探訪 〜その1〜
 1 人形町
 2 銀座
 3 日本橋
 4 浅草
 5 上野
第4章 洋食「聖地」探訪 〜その2〜
 1 神保町・御茶ノ水・小川町
 2 横浜
第5章 洋食ニッポン・関西三都物語
 1 京都
 2 大坂
 3 神戸
第6章 首都圏洋食紀行
 1 郊外エリア
 2 山手線沿線
 3 東京北部・東部ゾーン
 4 中央線沿線
 5 東京南部ゾーン
 6 最後は地元・町田
第7章 洋食ニッポン・全国めぐり
 苫小牧、札幌、仙台、新潟、名古屋。岡山、広島(呉)、松山
第8章 洋食とチェーン店・のれん分けなど
 1 チェーン店あれこれ
 2 南海旅行
終章 未来の洋食、世界の洋食

となっていて、第1章、第2章のところが「洋食」の起源を含めた洋食の歴史と、肉・シチュー・魚・フライと種類豊富なメニューの考察、第3章から第8章までが筆者が食べ歩いた各地の「洋食」のレポート、最終章が、洋食の新たな愛好者と世界に広がった「洋食」の考察、といった仕立てになっている。
で、「洋食」というやつには、本書の冒頭で

よし、ちょうどいい時間だ。いつもの洋食屋に行こう。土曜はやっているはずだ。おっ、やはり開いていた!ドアを開ける瞬間、気持ちがなんだかウキウキしてくる。

とあるように、日本人の遺伝子の中に心を沸き立たせる何かがあるようで、そのへんを筆者は洋食の大傑作である「お子様ランチ」の
①いろいろなおいしさに出会える
②見た目の豪華さに感動する
③お土産もある
という魅力に感動する子供時代に始まり「食べ物だけでなく、店もおいし」と気付く青年洋食時代、「友人たちとワイワイ楽しく食べて飲んでもいいけど、1人で洋食を食べつつゆっくり飲むのも悪くないな。こんな自分は大人だなと気がつく」おっさん洋食時代、そして「店の人たちが心を込めてつくってくれたことによる「滋養」や、店の人たちが演出する囲碁事のよさが、ご老人たちの「元気」につながっている」老人洋食時代と、一生を通じて魅惑する「洋食の力」を抽出しているのだが、まさに至言ですね。これに加えて、第二章では、「話をハンバーグに戻すと、現在の洋食店のハンバーグは、大きくは挽肉を粗挽きにした肉々しいタイプとよく挽かれたなめらかタイプがあり、それぞれのおいしさがある」といハンバーグに始まって、ソテー、シチュー、フライト続く洋食の「メイン」と「アラカルト」料理が詳述に分析されているので、「洋食」の理論編に興味ある方は熟読するとよいでしょう。

そして、筆者の「定食本」を読む醍醐味である、実体験に基づくレポートは第三章から始まっているのだが、そこは全国各地のレストラン、定食屋の「定食系」のメニューに飽くなき探究心をもつ筆者らしく、例えば洋食の聖地が多い東京では、人形町の老舗洋食屋「来福亭」の

エアコンもついているが、天井には扇風機がついていて、さすがは明治からの老舗だなと思っていると、メンチカツとライスが登場。これはこぶりだけど、とても美しいメンチカツ。ポテトサラダ、パセリ、キャベツつきだ。・・・ではまずメンチから。「ザクリ!」というより「サクリ!」かもしれない。「ザ」と「サ」の間のとても素敵な揚げ方。肉はなめらかかつミッチリの素晴らしいバランス。

といった「メンチカツ」に始まり、なかなか当方のような地方在住者には遠い聖地である、北千住「三幸」の

おお、こりゃおいしそう、グツグツ生音を立てているよ。土鍋の中には、牛肉の角切り、ポテトフライ、インゲン、そしてスパゲティが入っている。
まずはスプーンでビーフシチューを。アチチ、本当にこれは熱いね(笑)。酸味のあるおいしさ、続けて牛肉。こりゃ柔らかくてトロトロのお肉。うまいよ!おかず力もあるので、ご飯をパクパク食べる。・・・肉一切れとスパとシチューが残る・・・。「これは間違いない!」と思いつつ、スパを食べるとやはりビンゴ!牛肉のpエキスが充分に溶けたシチューが絡まり、凄まじいおししさ。

というビーフシチューであったり、とまさに百花繚乱なのである。
このほかにも、大坂の住吉大社ちかくの「やろく」の玉子コロッケ、エビフライ、カキフライ(または貝柱フライ)の三種が載った「限定セット」であるとか、神保町にある「キッチン南海」から暖簾分けして、高円寺・高田馬場・下北沢など東京の各地に広がった「南海」ファミリーの「ハンバーグ+目玉焼き+ウィンナーのセット」「イカフライ+しょうが焼き」「ヒラメフライとメンチカツのセット」など、各地の「洋食」の数々がでてくるので、これから先の詳細は原書でお楽しみを。

【レビュアーから一言】

もともと日本の「洋食」というのは、「西洋料理」をはじめとして外国から伝来したものであるが、すでに日本料理と言ってもおかしくない完成度になっている。本書の最後のほうで、ソウルのCOEXモールのフードコートで、鉄板に上に、ライス、チーズハンバーグ、もやし、味噌汁とつぼ漬とらっきょうが鉄板の上にのっている「チーズハンバーグ・ステーキ」9500ウォンが「ジャパニーズ」のメニューに入っているように「YOSHOKU」が輸出される時代もくるのかもしれません。

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